第30話  悪役姫は眠れない

「全てはセレスティーナ様の好みに合わせるようにと国王陛下より承っておりので、セレスティーナ様のご要望に合わせて、いくらでも変えることは出来ます」


 だから、かりそめの王妃だって言っているのに。

 マリアーナには是非とも、私の次にやってくる王妃の意向に沿って、部屋の模様替えをやって貰いたい。


 それにしたって、王妃の間、王妃の執務室、侍女の控えの間、王妃の居室、王妃のクローゼットルーム、王妃の着替えの間、王妃の浴室、王妃の寝室と、王妃の使う部屋が多すぎないですかね。


 今は前王妃が使用したまま、壁紙もカーテンも変えられていない状態なのだけれど、アデルベルトの母親はかなりセンスが良い方だったみたいね。カーテンや壁紙の配色は色鮮やかではあっても、落ち着いたデザインのものを取り入れているように思えた。


「王妃の寝室の隣が、ご夫婦の寝室となります」


 ドアを開けて案内しようとするマリアーナに、首を横に振って、私は入るのを拒否する事にした。


 王妃である私は一歩たりとも踏み入れたことがない部屋へ、王妃以外の女性は安易に招き入れているっていう噂話を侍女から聞いて、一回目の生では、嫉妬でどうにかなりそうだったのよね。二度目以降は、本当にどうでも良くなってしまったけれど。


 ループをし続けて、八回を終えて九回目ともなると、夫婦の寝室ねえ・・・興味がないと言えば嘘になるけど、心の奥底から実にどうでも良いっていう感じで、見る気すら起きない状態になっている。


 子作りが命題の王族の結婚だから、王と王妃の部屋は寝室を間にして繋がっているのは、王国も聖国も同じこと。夫婦の寝室の向こう側には、ここと同じように、王の寝室、王の浴室、王の着替えの間と続くのだと説明を受けました。


 王宮の最奥に当たる奥宮には他にも、子供が生まれた時に利用する部屋、子供部屋、乳母の部屋など色々あり、王家の子供は八歳まではここで育てられるけれど、以降は同じ敷地内にある離宮に移動をして生活を始めるのだとマリアーナが説明してくれた。


「バレアレス王国は過去に王族のみ一夫多妻を許されていたという事もあり、多くの妃が離宮を与えられて暮らしていたのですが、今現在は、聖国カンタブリア同様、わが王家も一夫一妻となっているため、離宮は王子王女の居住スペースとして管理されているような状況です」


 一夫一妻だから大丈夫!みたいな眼差しで見るのをやめてほしい。

 一夫一妻でも駄目だったから、今に至るみたいなところもあるのです。


「壁紙も今は色々な種類があるので、セレスティーナ様にも是非、ご覧になって頂きたいと思いますの。カーテンもこの際、全て新しいものに変えるのも良いですわね」


 今までは漆喰の壁に色鮮やかな模様を入れるかタイル張りをするしか方法がなかったのに、製紙技術の発展から、さまざまな壁紙が作り出されるようになったのです。それで、多くの貴族が利用するようになったのだとか。


 聖国カンタブリアは人々の寄進で成り立つ貧乏な国なので、城の壁は全部漆喰だったな。なんて事を思いながら窓から外を眺めると、美しい薔薇の庭園が視界に入った。


 王や王妃の部屋は防犯の理由から2階に位置しているため、薔薇園を見下ろす形になっている。この薔薇園のずっと奥、生い茂る木々の向こう側が宮殿の裏手に位置するため、監視の目が行き届かない場所になる。そのため、こっそりとこの近くまで、頭や体に葉っぱをつけながら潜入してきた過去を思い出した。


 王族のプライベートスペースにある庭園は特別美しいものであり、アルベルト国王は親密な仲になった恋人を連れてこの庭園を散歩するの。陛下はストレスが溜まると良く庭園を散歩するらしくって、愛しい人との逢瀬に利用するみたい。 


 私はいつの時でも薔薇園の近くまで潜んで行って、今回の人生では誰が恋人なのかとチェックしていたのよね。いつでも全てが無駄な努力で、処刑台に連れて行かれる事になったけれど、今回は一体何の罪を着せられるのかしら・・・


「姫、気分転換に、庭園を散歩させて頂いたら良いのでは?」


 チュスに声をかけられて、ハッとして顔を上げる。

 いつの間にか、壁紙の説明を止めていたマリアーナも、心配そうな様子で私の方を見ている。


「ああ・・そうね・・気分転換に散歩してもいいかしら?」


 連日、私はうまく眠れていないので、目の下の隈は酷いし、顔色も悪い。

 一度だけぐっすり眠れた事があったのだけど、あれ以降、うまく眠る事が出来ない。


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