第20話  悪役姫セレスティーナ

 私はセレスティーナ・カンタブリア。

 一度目の人生の時の私は、とにかく誰かに愛されたくて、愛されたくて仕方がなかったのだと思います。


 姫巫女として生まれた私はお人形さんのような扱いで、父と母は顔を見に来る事もなく、私の身の回りの世話をする侍女も、仕方がないから面倒を見ているというような状態で、私が何かを主張する度に、巫女は感情を表に出すものではないのだと叱咤されて、嫌悪の表情を浮かべられ、萎縮するばかりに日々でした。


 聖国カンタブリアの姫として生まれた私には二人の兄がいたのですが、一番目の兄は皆から愛される人でした。一度目の人生では十四歳の時に毒を盛られて亡くなったのですが、何故か私の所為で兄は亡くなったのだという事になっています。


 毒を盛る事になった侍女を私が廊下で見かけたのは事実ですが、その時に私が侍女を捕えていたら兄は死ぬ事にはならなかったというんですね。言われている事はメチャクチャですが、それ以降、私の待遇は目に見える形で悪くなり、私は嫌悪の感情に包み込まれるようにして育つ事になったのです。


 一度目の人生で、確かに私は自分の国を滅ぼすために動きました。神殿の祭事に訪れていたジェウズ侯国の王子に内応し、敵を王宮内に引き込んだのは確かに私です。戦火から逃げ出した私が出会ったのがアデルベルト陛下で、陛下の妻となった私に、王国内で悪事を働く人々が次々と声をかけてきました。


 確かに、一度目の私はバレアレス王国も滅ぼそうとしました。だって、わざわざ私を妻に迎えたというのに、アデルベルト陛下は私を愛してくれなかったから。

 最後はギロチン刑を受ける事になり、私は世界を呪いました。私に対して無慈悲でしかない世界など、無くなってしまえと念じたのです。

だけど結果は、絶命と共に十歳の頃に戻っただけ。


 今度は毒を盛る侍女を捕まえて、兄の命を救う事には成功しました。


 兄の命は救えても、カンタブリアがジェウズ侯国に滅ぼされる未来は変えられませんでした。そして、いつの時でもアデルベルト陛下の恋人に私は糾弾されて、処刑台へと運ばれていく事になるのです。


 何度も繰り返していれば、その先に起こる未来を、まるで予言をするように告げる事も出来るようになります。一度目、二度目では私の存在などまるで無視していた両親も、三度目にはようやっと私の言葉にも耳を貸すようになりました。


 家族との仲が改善されていったとしても、私が死ぬ運命は変えられません。三度目からは冤罪で罪を着せられて殺されるようになり、私は心の底から震え上がるほどの恐怖を感じるようになりました。


 処刑台に上がりたくない一心で家族と共に他国へと逃げ出せば、絶対に私の家族が死ぬ事になってしまうのです。

 聖国カンタブリアが滅びる事も、私がバレアレス王国の王妃になるという事も、運命で決められているようで変えることが出来ません。


 王国から逃げ出そうとすると、犬に噛み殺され、暗殺者に殺されてしまうのです。

 繰り返せば繰り返すほど、私が何もしなくても罪が作られ、断罪をされ、結果、私は処刑台へと連れて行かれる事になるのです。死ぬのは苦しくて、辛くて、それが8回も続けば発狂寸前になってしまうのも仕方がないと思います。


 いつでも処刑台の向かい側に設置された王族の席にアデルベルト陛下はいて、その傍らには彼の恋人が腰を引き寄せられた状態で立っているのです。


最初は嘲笑うように私を眺めていた恋人たちが、最近では結末が決まりきったショーを見るような眼差しで眺めていている事には気がついていました。


 もしかして、彼女たちも私と同じようにループを繰り返しているのでは?そんな疑問を抱きながら目を覚ましたのが九度目となる今の人生で、彼女たちの魔の手から逃げ出すには、結婚の儀を行う日に掛けるしかないと決意しました。


 私の死ぬ間際には、アルアンドラの蜘蛛の養殖に成功したという事がニュースとなっていました。銀色に輝くアルアンドラの糸は高値で取引されますし、この糸で作ったドレス生地などは小国なら買い取れるような値段で取引されていました。


 粘糸は私の髪色と同系色となるため、これでカツラを作ったら良いでしょう。私は早速、蜘蛛の養殖に取り掛かる事にしました。カンタブリアは将来、確実に滅ぼされるので、養殖は亡命予定となる国の山の中で行う事にしました。


 家族が亡命した後は、私だけカンタブリア王国内にある離宮へと移動をして、バレアレス王国からの迎えが来るまで待つ事にしました。


 いつもそうなのですが、結婚の儀式を終えるまではアデルベルトはとても親切なのです。ただ、初夜となる夜を迎える頃には人が変わったように不機嫌となり、私とは一切交流を持たないようになるため、儀式を終えた後に行われる応接の間での顔合わせが私にとっての最初で最後のチャンスという事になります。


 どうせ愛する事のない妃なのです。病で死んだ、毒で死んだという事にして用意した遺体にアルアンドラの蜘蛛の糸で作ったカツラを被せて荼毘に伏して欲しい。


 亡命した家族も私が戻ってくるのを待っていてくれるので、例え、王宮の前で放り出されたとしても、何とかなるとは思います。

 ただ、死ぬまで男だと誤解されたチュスが今世で困る事がないように、最初の顔合わせで彼女が女性であるという事も主張しないといけませんよね。


 どうせ愛さない、放置するだけの存在なのですもの。

 どうか、貴方は好きな人と結婚をして、私は死んだものとして捨ててくれれば良いのです。


「ハッ」


 真夜中みたいで、部屋の中は真っ暗です。

 私が与えられたのは貴賓が宿泊するための寝室であり、王族が住まう区画とは離れた場所に位置していました。

 何か温かくて大きなものに包み込まれている事には気が付きましたが、現状が理解できません。私が小さく身じろぎすると、

「セリ、大丈夫、大丈夫だから」

大きな手が私の頭を撫で付けながら、更に包み込むようにして抱きしめます。


「セリ、俺がいるから心配しないで」


 耳元に囁かれるのは、確かにアデルベルト陛下の声でした。だけど、その言葉は私の心の奥底に忍び込むような力があって、どうしてこんな事を自分でも言い出したのか理解出来ないのですが、私は涙を流しながら、嗚咽まじりに訴えたのです。


「あっくん・・怖い・・怖いの・・・助けて・・私死にたくない」


 涙は後から後からこぼれ落ちて、あっという間に陛下の胸元を濡らしていきますが、私を抱きしめる力は弱まらず、更に強くなるようでした。


「芹那、俺がいるから大丈夫だから、安心して」

「あっくん・・敦史くん・・助けて・・・・」 


 唇が重なり、絡み合うようにお互いを抱きしめ合いました。

 これは夢、間違いなく夢ですね。


 だって起きたら誰もベッドになんかいませんでしたもの。


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