第19話 マリアネラ王女の選択
ビスカヤ王国の正妃の娘として生まれた私、マリアネラには生まれ変わる前の記憶がある。日本という国で生まれた私は、普通の高校に行って、普通の大学(家政学部)に通って、栄養士の資格を取って小学校の給食センターに就職したの。
給食センターで働くのはおばちゃんばかりで、異性と言ってもおじさんばかり。職場に出会いがない私は、元々の引っ込み思案の性格もあって、二次元の世界に逃避行するようになってしまったの。
特に大好きだったゲームが『天翔る乙女の聖戦』で、とにかくやり込み続けたわ。
ヒロインは三人いるんだけど、全員がハッピーエンドなんて最初だけ。最後の隠れルートを開放すると、たった一人だけが生き残れるサドンデスマッチみたいな物になるの。
とりあえずリリアナが捕まって、家族一同処刑エンド決定だから、聖女カンデラリアを破滅に導いて、自分だけ勝ち抜けエンドを目指さなくっちゃ!
聖女教会のトップである聖女カンデラリアをどう嵌めるのかって疑問に思うかもしれないけれど、これは悪役令嬢が主役となるストーリーのテンプレ展開を推し進めるだけだから本当に簡単なの。
とにかく、悪役であるセレスティーナを攫って殺す、ただそれだけ。
ラスボスであるセレスティーナは常に断罪からの処刑エンドを迎える事になるんだけど(私たちは途中から面倒くさくなって、セレスティーナがいっつもやっている悪事を早め早めに暴露して断罪に持っていった)この回だけは断罪には持って行かないの。
王妃となったセレスティーナに嫉妬した聖女が、アデルベルト陛下を手に入れるために、ただそれだけの為に、セレスティーナを殺すの。
もちろん死んだセレスティーナは悪霊化するんだけど、聖女が殺めたという事もあって神の御技とも言われる浄化をする事が出来ずに、聖女は地獄に引き込まれるようにしていなくなってしまうのよ。
これは聖女にとってはバッドエンドという事になるわね。
それで、最後に残った私はバレアレス王国に戦争をふっかけようとするジェウズ侯国にわざわざ出向いて行って、
「もうやめて!人が死ぬのは見たくない!」
と言って王子の心を改心させるの。侯国とバレアレス王国を平和に導く事になるのよ。
和平の式典で、マリアネラ王女の前に三人のイケメンが跪くのよ。バレアレス王国の国王アデルベルトと、ジェウズ侯国第一王子フィルベルト、そして第二王子ランメルトが揃って私に求婚をして、誰を選ぼうか悩むところで選択肢が出て、最後には結婚式からのハッピーエンドってわけ。
これこそが隠された第二王女のトゥルーエンド。
はっきり言って、このエンドでループを完結させてしまいたい。
ちなみに、ここで三人から選ばずに、真実愛する人を選ぶというチュスエンドも出てくるので、私はこれからどうしようかと胸が弾むような気持ちでいるの!
「姫様!本当にジェウズ侯国へと向かうのですか?」
「向かうに決まっているじゃない!お父様もお兄様も何も分かっていないんだから!私がここで戦争を止める事で、第二の聖女として持て囃されることになるんだからね!」
「本当にそんな事になるのでしょうか?」
私とジェウズ侯国の第二王子であるランメルトは幼馴染の間柄であり、文通も続けているような仲だから、隠密裡に侯国内への移動も可能になっているの。
ジェウズ侯国は国土の半分が山岳地帯というような国でもあり、軍の力によって盛り返してはいるものの決して豊かとは言い切れない国なの。
昔はビスカヤ王国の一部だったんだけど、侯爵が独立して国を立ちあげたのがジェウズ侯国であり、ビスカヤとは長年、親密な関係を築いているのだった。
「マリアネラ王女、まさか貴女がわざわざ今の侯国までやってくるとは思いもしませんでした」
離宮で私を出迎えたランメルト第二王子は明らかに焦燥した様子で私の手を握りしめると、
「貴女は本物の聖女なのかもしれない」
と言って、困り果てた様子で笑みを浮かべた。
ランメルト第二王子はフィルベルト第一王子に比べると覇気が全く無い。だけど性格は善良で温厚、戦乱の世を忌み嫌うようなところがあるのよね。
「ジェウズ侯国の今の状況は十分に理解しておりますわ!私に出来る事があればと思って参りましたの!」
「ビスカヤ王国の方々はお許しになったのですか?」
「父も兄も喜んで私を送り出してくれました」
私がジェウズ侯国へ行くと言ったら、父も兄も激怒して止めてきたの。
今のジェウズ侯国は戦争推進派のフィルベルト第一王子と穏健派のランメルト第二王子が争っているような状況であり、侯国の議会は紛糾しているような状況なのよね。
ゲームではここで第二王子を選択したマリアネラ王女がジェウズ侯国へと密かに渡り、ビスカヤ王国の意思として停戦を呼びかける事になるの。
転生前は誰にも見向きもされない私だったけれど、ヒロインとして生まれ変わった私を皆んながちやほやしてくれるわ!
私を出迎えてくれたランメルト王子は、それは素晴らしいドレスを私の為に用意してくれたわ。百を超えると思われる宝石の粒をあしらったドレス、最後のエンディングロールでマリアネラ王女が着ているドレスだわ。
私が少し声を掛ければ、誰しも熱のこもった熱い眼差しで私を見るようになるの。悪役のセレスティーナが闇なら私は眩い光といった感じかしら。
最近では面倒だから早めに殺してしまっていたけれど、処刑をする前に私のこの美しい姿を見せたかったかも。このドレスはトゥルーエンドでしか着られないものだから、このドレスを今の時点で私が着ているって事は、セレスティーナが死んじゃったって事かもしれない。
日の光を浴びると純白にも見える豪奢なドレスを身に纏った私は、旅の疲れも感じさせずに侯国の宮殿へと向かうの。平和を求める志から、私は前を向いて歩いていくの。
議会で紛糾しているはずの王宮へランメルトのエスコートで入る事になった私は、いつもは通らない通路を通っている関係からかしら、誰とも顔を合わせる事なく議会の間へと移動する事になったの。
宮殿の中は何故か薄暗くて、時々悲鳴のようなものが聞こえてくるのは気のせいなのかしら。
議会の間は真紅の扉で閉ざされていたのだけれど、周囲の廊下には護衛の兵士もいないし、人の姿が一人も見えない。
扉をノックしたランメルト様がこう言ったの。
「マリアネラ・ビスカヤをお連れいたしました」
「入れ」
誰が中に居るのかしら・・・聞いたことが無い声だったのだけれど。
真紅の扉が内開きに開いていくと、男達の猥雑な笑い声が聞こえてきた。
議会席が並べられているはずの室内は、嵐が通り過ぎた後のように破壊され、女性のものと思われる無数の白い足が見えた。
「お前がマリアネラ王女か・・・」
私の目の前に立ったのは熊の毛皮を身に纏った大男で、細い目が刃物のように鋭利に見えたし、その野蛮な性質が全身の隅々から滲み出しているように見えた。
「ビスカヤ王国は自国への侵略を阻止するために姫を差し出してきたという事か」
「今のジェウズ侯国にわざわざやってきたのです、祖国を守るために姫君も覚悟を決められているのでしょう」
ランメルトの顔がよく見えない。
ランメルトも気になるし、この目の前の野蛮な男も気になるんだけど、最も気になるのは議会の中でも王族が座る席に血まみれの状態で放置されている遺体よ。
あれは間違いなく、第一王子であるフィルベルト王子、なんで王子が死んでいるの?
「さあ、お前は我が妻になるのだ。祝祭を始めよう」
男は間違いなく、蛮族と言われる山岳に住む部族の男だった。私の腕を掴んで部屋の中に引き入れると、下品な笑い声をたてていた男達が喜びの声をあげた。
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