第17話  聖女カンデラリア

 至高の聖女である私、カンデラリアの朝は一杯の紅茶から始まる。


 恭しく差し出される紅茶はその日の気分によって変えられる。今日は口当たりも爽やかなハーブティーであり、目覚めの良い朝を迎えられたと思っていたのに、バレアレス王国についての報告書に目を通して、思わずため息が溢れでてしまったの。


「ねえ、これって本当にあった事なのよね?」

「はい、間違いありません」

「まあ、なんて事なのでしょう!」


 そば付きの修道女を下がらせると、私は窓を開けて晴れ渡った青空を見上げたのだった。


 ここは『天翔る乙女の聖戦』という乙女系ゲームの中の世界であり、私はすでに6回もこの世界の中でループを繰り返しているの。


 聖女である私の他にも、アデルベルト国王の妹ポジションであるイーリャ・イリバルネとビスカヤ王国の王女であるマリアネラ王女がヒロインとして存在していて、二人とも私と同じように6回のループを繰り返していた。


 この乙女ゲームのメイン攻略対象者が、バレアレス王国の国王であるアデルベルト陛下。その他にも、聖国カンタブリアを滅ぼしたジェウズ侯国のフィルベルト王子と、その弟となるランメルト王子。

 アデルベルト陛下の側近であるセレドニオと、悪の王妃セレスティーナの側近であるチュス・ドウランもまた、攻略対象者として存在する。


 天翔る乙女の聖戦という名前のゲーム、これはセレスティーナ・カンタブリアというラスボスを倒さなくてはいけない物語なの。


 生まれた時から政略の駒という扱いしか受けてこなかったセレスティーナは、父からも母からも一切の愛情を与えられず、放置されて育ったわけ。

 セレスティーナには二人の兄が居るのだけれど、嫡男は十四歳の冬に亡くなった。この嫡男の死がセレスティーナの所為であった為、父や母、もう一人の兄は、不幸を呼び込む娘としてセレスティーナに憎悪を抱くようになるの。


 その後、周り中から虐げられて育ったセレスティーナは、隣国ジェウズ侯国のフィルベルト王子を唆して、祖国カンタブリアを滅ぼしてしまうのよ。

 王宮を抜け出したセレスティーナは国境線上に派兵をしていたアデルベルトと出会い、美しいセレスティーナに魅入られたアデルベルトは王妃として彼女を迎え入れる事となる。


 不幸と破滅を愛するセレスティーナは、王妃となって君臨する事となったバレアレス王国の国家転覆を狙って動き出す。


 このストーリーの中でセレスティーナの悪事を暴くのが三人のヒロインの役割で、追い詰められたセレスティーナは死刑の宣告を受け、民衆の怒号の中、命を落とす事になる。


 死んだセレスティーナは悪霊と化して、人々を恐怖のどん底へと突き落とす事になるわけ。その悪霊化したセレスティーナを浄化して倒すのが聖女である私、カンデラリアの役割となるのだけれど、

「正直に言って飽きた・・・」

 というのが私の感想だったりする。


 セレスティーナが死刑となり、悪霊化したセレスティーナを浄化して、最後には聖なる女神の降臨と持て囃されながら、アデルベルトと結婚した事もあるし、ジェウズ侯国のフィルベルト王子とも、ランメルト王子とも結婚した。末端攻略対象者であるツンデレ眼鏡キャラのセレドニオとも結婚したし、チュス・ドウランは、実は女だったというオチだったから結婚は出来なかったけれど、攻略対象者は全て攻略済みなのよ。


 アデルベルトなんて2回も攻略しているわよ。だけど、結婚式を挙げてみんなに祝福された所で戻ってしまうの。


 面倒臭いから、なるべく早く悪女セレスティーナを断罪して、処刑に持って行ってからの怨霊浄化エンドにまで持って行く事にしたんだけど、回を重ねているだけに、断罪まで持っていくのがものすごく手際が良くなっているのもまた事実なのよね。


 正直言って頭狂いそう、そろそろこのループから解放されたいと心の底から思っている。


「私も正直に言ってもう飽きた」

「展開が見え見えなんだもの、イケメン相手にラブアクションが起こっても、ハイハイと冷めた反応しか出来ないのが悔しい所なのよ」


 マリアネラ王女もリリアナ嬢も、毎度おなじみの話の展開に飽きて、うんざりしているような状態だった。



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