第13話  セレスティーナは困惑する

 チュスからの話をセレドニオ様はアデルベルト陛下にお伝えしたのでしょうね、その日の夜に陛下は私の元へとやってきたんですけど、


「セレスティーナ!俺の話を聞いてくれ!」

「ひいいいいいいいいいいっ!」


 夜中に扉を開けてやって来た自分の夫(名ばかり)の顔を見上げた私は、泡を吹いて倒れたそうです。


 私の耳には、

「セレスティーナ!俺のために死んでくれ!」

って聞こえたのです、また殺されるのかと思ったわけです。


 過去8回殺されていますからね、トラウマが凄いことになっているのだと思います。


 とりあえず泡を吹いて倒れたし、14連勤は辛いものでしたし、しばらくの間はお仕事の方は休もうと思っていたんですけど、翌日には新しい侍女頭となったマリアーナ夫人が現れて、


「私が不在の間に、ご不便をおかけした事、誠に申し訳なく思っております」


 と言って、床に頭が触れるんじゃないかなって思うほど頭を下げて来たのでした。


 元々、二年前まで働いていた方だったそうなんですけど、当時の国王陛下の所為で、王子の死亡(流行病で死んだのに)はお前の所為だって事でクビになっていた所を、アデルベルト陛下によって呼び戻されたのだそうです。


 ちなみに、厨房で働く人間も一通りクビとなり、王都でスカウトをされてきた人達が新しい料理人として王宮で働く事になったそうです。


 私の告発(復興支援の中引きの主導犯は宰相でした)が功を奏したのか、私を不遇の立場に追い込んだ宰相は捕えられたそうですが、横領の金額が半端じゃなかったらしくって、死刑になるんじゃないかとか噂されているみたいです。


 今世での陛下の恋人役だと思っていたリリアナ・イリバルネ子爵令嬢は、隣国とのスパイ容疑で逮捕。ジェウズ侯国に王国の情報を流していたっていうんですね。


 黒幕が陛下の叔父にあたられるデメトリオ様だったそうで、身柄を拘束しようと向かった所、毒を飲んで自殺していたということです。


 こんな事、今までの8回の人生ではなかった事なんですけど、どうなっているの?


 そうしているうちに、新しい侍女頭が陛下からの手紙を持って来てくれました。

 その手紙を読んで、ますます混乱が大きくなっていきます。


『愛しのセレスティーナへ


 色々と話は聞いているとは思うんだけど、マジでこれだけは信じて欲しい。リリアナは俺の恋人なんかじゃない!女として見たことなんてねえし!精々が妹分って感じのもので、俺は正直言ってお前しか見ていねえから、それだけは信じてしてくれ。お前を陥れようとした宰相や叔父のデメトリオも居なくなったから本当に安心して欲しい!え?俺が居るから全然安心出来ねえって?マジでお前を冤罪で追い込んだ奴、今の俺じゃねえから!とにかく飯でも食いながら話をしよう!空腹は不幸を招き入れるだけ、絶対に美味いもの用意させっから、今日の夜は一緒に美味いものでも食って心ゆくまで話そうぜ。とりあえず、俺を見てぶっ倒れねえ程度の距離感保てるテーブルを用意したか心配せずに、俺の招待を受けてくれ!       』


 何度読んでも意味が分かりませんわよね。

 ジェウズ侯国と緊張状態に陥っている為、敵の間諜を欺くための手紙という事かしら?それにしては、晩餐に誘われているようにも思えるのだけど。


「セレスティーナ!リリアナは僕の恋人じゃないんだからね!僕の恋人じゃないの!分かってくれたかい?」


 十人は座れる長卓の端と端に分かれて晩餐の席についた私たちです。アデルベルト陛下が必死に声を上げていますが、無言で微笑だけ送っておきます。


 目を細めたら輪郭がはっきりと見えなくなる距離なので、とりあえず失神せずに耐えることが出来るみたいです。


 陛下と食事を食べるだなんて、きっと味はしないだろうし、恐怖と緊張で失神してしまうだろうと覚悟を決めていたのだけれど、目の前に出された焼き魚というメニューにごくりと唾を飲み込み、マゼゴハンとオミソシルという見た事もない食べ物とスープに、体の奥底から湧き上がる欲求に従わざるを得ない状況に陥り、最終的には、自分でも驚くほどスムーズに完食してしまったのです。


 過去の人生ではこの王宮でろくなご飯を食べた事がないんだけど、料理人も一掃されたというし、きっと素晴らしい料理人が雇われることになったのね!


 以降、朝食と夕食は陛下と一緒に摂るようになったのだけれど、晩餐会で使用する長さの長卓越しなら大丈夫かなと思って、一緒の食事を続けています。


 そして、私の専属の侍女についてですが、セレドニオ様の家で雇われていた侍女たちが王宮で雇われる事となり、私付きとして住み込みで働く事になりました。


 部屋の掃除をするメイドたちも、セレドニオ様が連れてきた子達が王宮での直接雇用となったので、

「お給料が増えて大満足です!」

 と、嬉しそうにしているので、肩の力が抜けてしまいました。


 私が知っている王宮の中は、ほぼほぼ十割の人が意地悪でしたから、彼女たちが王宮で雇われる事になって肩身が狭い思いをするのではないかと心配していたのですが、

「宰相の縁故は全て追放となっていますので、意地悪をしている暇もないほど皆さん忙しそうにしていますよ」

 と、チュスは言っていた。


 そうして、運ばれてくる食事やデザートも様変わりをして、

「このチキン、食べた事があるわ・・・」

 どう考えてもあの時愛した鶏の丸焼きを添えたランチに舌鼓を打っていると、


「料理人はすべて、姫様が書かれた王都でお勧め買い食いマップに出ているお店から引き抜いてきた者たちなので、私が買ってきた物と同等のものを姫様は今後も食べられる事になると思いますよ?」

 と、チュスが教えてくれたのだった。


 過去、私に残飯や下剤入り、毒入りの食事を出していた人たちは、紹介状を貰うことも出来ず、鞭打ちの刑を受けた後に、王宮の外へと放り出される事になったらしい。


 何でも、堂々と、

「カンタブリアの人間なんか舌が肥えているわけでもないから、残飯を与えておけばいいんでしょう?下働きのメイドよりも不味いものを与えておけって事だから、そこらのゴミでもよそって持っていくように言っていますから安心してください」

 なんて言っていたのが陛下の耳に入ったそうです。


「本当は死刑にしても良いとは思ったんだけど、それじゃあやり過ぎだって周りから言われて、渋々、鞭打ちの刑で我慢したんだよ」


 と、夕食の席で陛下は言っていたのだけれど、この人は一体誰なの?過去8回、私を冷遇し続けてきた陛下と見た目は全く同じなのだれど、中身がなんだかおかしな事になっているような気がするのだけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る