誤解2
リクに連れられやって来たのは、丘のてっぺんにある十字架にまみれた棺桶の前。鎖が巻かれた重い蓋を開けると闇に支配された地下階段。
埃臭く湿った臭いに顔をしかめ、ゆっくり降りると蝋燭に照されボンヤリ見える。ステンドグラスや長椅子、十字架、マリア像と地下にしては珍しい教会。
【拠点
静寂に包まれ『堕ちた聖域』ような妙な空気と空間に圧倒されていると、コツンコツンと階段から足音が聞こえ、身構え振り返るとペストマスクを付けたリベスの姿。
「おは……」
口を開くもすぐに閉ざし、俺ではなくケイを見て黙る。
静寂。
風の音もすら何一つ聞こえない。
妙な視線と鋭い気配。
言葉にせずとも二人が睨み合っていた。
「彼女さんに酷いことしてすみません。以後、関わるつもりはないので」
彼にしては似合わない丁寧口調。
「別に怒ってねーし。分かってんならそれでいい」
あっさり謝られ、気が狂うと頭をかく。
しかし――。
「なんだ、殴られると思って『バフ』付けてきたが構えすぎたか」
『期待外れ』と言わんばかりの言葉と態度に「あぁん?」とケイが食らい付く。カッとなったか。リベス向かって拳を振るった。
「先輩!!」
止めようと声を出すも聞こえてないのか反応がない。怖くなり手で顔を覆い、指と指の隙間から覗く。
すると、振り向き様に左足を一歩下げ、上半身を軽く反らしケイの攻撃を意図も簡単に避ける余裕さ。
「テメェ!!」
「……なるほど、大振り。確かに前と戦い方が違う」
考え事かボソボソと何かを呟きなが
「ちょこまか逃げんなッチビ!!」
素早く突き出された拳に手を添え、軽く受け流す。だが、避ければ踏み出す。引くことを知らない動きに「へぇ……」と感心。
ブンッと風を斬る力強いフックにストレート。パンチのみならずミドルキックやハイキックと巧みに組み込み、コンボを切り替える頭の回転の早さ。
「判断力はずば抜けてる。さすが元パーティーリーダー」
時々手を添え、軌道や威力を軽く殺すも力がそれを上回り意味をなさない。
「ッ……」
ストレートがリベスの頬を掠る。
「どうした、さっきの余裕はよぉ!!」
思いっきり放たれたジョルドブローを腕を盾に止めるも耐えきれず。大きく後ろへ飛ばされ、壁に当たり座り込む彼を助けようと体が勝手に動いた。
二人の間に割り込み、手を広げ「やめて!!」と叫ぶ。
「バカッ割り込むな。突然止まれるわけねーだろ!!」
俺の行動に驚き、ケイの怒鳴り声にグッと目を瞑るも当たらず。代わりにゴンッと鈍い音が耳に入る。ゆっくり目を開けると鞘で拳を受け止めているリクの姿。
「女の子を殴るのは許せないなぁ」
緊迫した雰囲気に似合わない、明るく微笑む彼の声にサッと血の気が引く。
「なんてね。じょーだんだよ」
拳を軽く弾き、鞘をベルトループに差すと「ごめんな。昨日、ケイと組んで気になったことがあったから試してもらってたんだ」とニコニコと何もなかったように話し出す。
「気になった? それは、戦い方に文句あるってか」
ケイが拳を構えると「まぁまぁ落ち着け」と肩を叩く。
「昨日の戦闘は悪くなかった。でも、今のケイには合わない。負けたのは自分のせいだと思ってるから、周り見えなくなって自分が嫌で突っ込みやすくなってんだろ?違うか」
「ッ!?」
「ほら、自分だって分かってんじゃん。話す奴が居なくて苦しかったろ。その子とリベンジするなら、俺たちにも手伝わせてもらえないか。
昨日、俺の戦い方見て悔しがってんの此方はバッチリ見てんだ。そんな顔されちゃほっとくわけいかないだろ? な、リベス」
リクの言葉に付け加えるようリベスが口を開く。
「可能性があるから救援に向かった。さもなくば見捨てた。あの時アンタの目は死んでなかったし、逆に彼女を一人残したことに悔やんでた。
だが、その選択は正しい。アンタも彼女も間違ってはない」
立ち上がり服についた埃を払っては、ケイを見てクスッと笑う。
「昨日、泣かせなくても呼び出すつもりだった。戦い方を変えれば今よりも戦術や行動の幅を広げられ、その方がお互いの戦い方を認識出来より動きやすくなる。
だから、リクにアンタの捜索を頼んで仲良くなるよう仕組んだ。手荒になってすまない」
目を反らしながらも、チラッと一瞬ケイを見る。
「良い彼女がいるのに手放すのは勿体ない。二度と失うなよ。軽く磨けばアンタに追い付く」
素っ気ない言葉。だが、その言葉は『俺が再度戦えるようになる』と確信があるからか。彼の瞳はまっすぐで迷いが無かった。
「うし、なんか良い感じになったしアバカ交換しようぜ!!」
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