誤解1

 翌日。


 ヘッドセットを外すと、暴食グラ同様寝起きと同時に涙が頬を伝う。


「……」


 腕で目を覆い、情けなさにベットを叩くとゴンゴンゴンッと朝から外が騒がしい。


「優輝、開けろ~休みだからって寝てんのか。おーい」


 聞き覚えのある声に急いで涙を拭い、玄関に向かうとヘッドセットを額につけたジャージ姿の圭。


「よっ」


 軽く手を上げ挨拶するも表情は何故か暗く、「なぁ、時間ある?」とコンビニ袋を俺に見せる。


「悪いな、ちょっとやなことあってさ」


 小さな丸テーブルを二人で囲み、グラスに入ったオレンジュースをビール代わりにコツンとぶつけ、肉まんを頬張るも圭の表情は分からず。


「先輩?」


「ん、あぁ……」


 半分食べたところで手を止め、はぁ……と深い溜め息をつく。


「俺さ、パーティー入ったのは良いけど合わなくて即辞めた」


「えっ……」


「固定メンバーとか。そのパーティーならではの約束とかルーティーンとかあるだろ?どーも合わないんだよ」


 気難しい顔をしながらパクッと一口。続けて――。


「昨日の夜、野良でやろうと受注して待ってたら『カウンターガーダー』が来てさ。その人すげぇー上手いの。立ち回りもカウンターもガードも引き付けも。なんか衝撃受けちゃって。

 ゲームって自分が上手いと思ってても、その上を行く奴と出会うと悔しいよな」


「……うん」


「それだから燃える。勝てないモンスターと同じで――」


 落ち込みながらも悔しそうに話す圭に微笑み返すも心の奥底では苦しく、返す言葉が見つからなかった。


「優輝」


 圭に優しく呼ばれるが、顔を見れず俯くを。無意識に涙があふれ、ポタッと涙がこぼれた。



         *



 圭に昨日のことを話すや否や、ヘッドセットをつけさせられ強制帰還。同時に珍しくリベスから『会いたい』とプチエリからコメントが届き、再びエリクシルへ。


【エリクシル 十字架の丘】


 木造、鉄と大小様々な十字架が集まり丘となったエリア。コメントではリベスは此処を拠点にしてるらしく、『赤く寂れた大きな十字架の前で待つ』と書かれていたが――中々来ない。


「来ねーな」


「来ないね」


 現実リアとは違い荒々しいキャラのケイ。待ちくたびれたかヤンキー座り。俺はその隣で膝を抱えるようしゃがむと「おーい、ケイ。サンキューな!!」と聞き覚えのない声。


「んあ?」


 俺よりもケイが反応し立ち上がると、焦げ茶で白の長袖と黒のガーゴパンツ姿のベルトループに刀を差してる見知らぬ男性。そこにはリベスの姿はなく、ケイに駆け寄よると拳をぶつける独特な挨拶。


「リク、なんで此処に?」


「友達が昨日を泣かせたって言うからさ。探しに来たんだけど……」


 ――と俺に視線を向け「もしかして、ケイの……」と苦笑い。


「あぁ。朝、現実リアで会いに行ったら泣いててな。事情を聞いて、腹立って一発殴りに来た」


 拳を掌で包み込む仕草に「マジか。ごめん」とリクが必死に頭を下げる。話が勝手に進み、追い付けずにいると「ユナ、昨日話したカウンターガーダーのリク」とケイが軽く紹介してくれた。


「あ、初めましてユナです」


「ん、ケイとリベスから話は聞いてる。大丈夫か。結構トラウマなんだって?」


 軽く微笑むも心配そうに初対面とは思えないほど優しく感じのいい人。


「え、あっはい……。昨日はリベスさんに怪我させちゃって。怒ってませんでした?」


「怒る所か凹んでたぞ。リハビリにしては敵が悪かったって。っか、被弾したのかアイツ。よくまあ消えなかったな……」


 初めはハッキリした声だったが、徐々に小さくなり呟く。気になり首を傾げると目が合い、何かを隠すようにニコッと笑う。


「とりあえず拠点だよな。アイツもう少ししたら来ると思うから。此方だ」

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