オキナ2

 押された勢いで走り出すと俺の真横を矢が――シュッと風を切る。それは、オキナに深々と刺さり、バチバチバチッと青い雷を放った。



【異常状態:麻痺ホールド



「行け!!」


 彼の力んだ声に思わず手に力が入り、双剣へ切り換え、痺れる【オキナ】に向かって思いっきり振り下ろす。


「はっ!!」


 そのまま斬り刻み、一旦右にステップを踏むと斬り刻みながらのバックステップ。隙を見せぬよう大きく踏み込み、双刃刀そうじんとうへ切り換えると振り回しながら突進。

 すると――バリンッと赤いステンドグラスのような美しい砕けたエフェクト現れ、左ヒレが傷付く。



【左ヒレ 結合崩壊部位破壊発生】



「あっ……やった!!」


「ナイス破壊。そのまま逆も行こうか」


 破壊と同時に麻痺が解け、すぐさま彼は『紫色に発行する毒々しい矢』を放つ。



【異常状態:ヴェノム



 暴れる度に【オキナ】が毒に犯され、ダメージを追う度に一旦行動が停止。


「はぁぁぁっはい!!」


 ダッシュ斬りからのバク転。スカートが捲れ、パニエが見えるも気にしない。それほど、戦うことに夢中だった。


 持てなかったはずなのに


 斬った時の感覚。結合崩壊部位破壊を起こしたときの感覚が――言葉では説明出来ないほど楽しく嬉しかった。


「良い顔してる」


 ヘビークロスボウを槍に切り替えた彼がスッと俺の隣に現れる。斬り込む俺の頭をポンッと撫でると穂を頭に向かって勢いよく突き刺し――バンッと銃声と水面が揺れるほどの大きな衝撃がオキナを襲った。


 ギギギッ……


 と、魚にしては似合わない声。


 大きく仰け反り、水面に当たるとブクブクと沈み、湖の底へと沈んでいく。



結合崩壊部位破壊右ヒレ】



結合崩壊部位破壊頭】



結合崩壊部位破壊胴体】



結合崩壊部位破壊背】



 どんどんログが表れ、多さに驚いていると彼はヘビークロスボウに戻し素早く矢をセット。そのまま俺に撃つと物凄い勢いでバフが付与される。



【対象:プレイヤー(上書き)攻撃力上昇】



【対象:プレイヤー(上書き)防御力上昇】



【対象:プレイヤー 素早さUP】



【対象:プレイヤー 水耐性UP】



【対象:ユナ バリアー

        (ダメージ数回無効)】


         :

         :

         :



 ざっと十数個。

 今までこんな数付けたことない。


「り、リベスさん!?」


「これでも君は足りても俺が足りない。

俺に何かあってもに呑まれるな。分かったな」


 倒したと、喜びで高鳴も……まだ終わってなかった。彼の真剣な眼差しに気を引き締めると青い水が血のように赤くなり雰囲気や気配が大きく変わる。


 戦闘曲が止み、静寂が――俺たちを包む。


 ポチャン――と滴が水面に当たり、波打つ音。それらの音に風鈴のように甲高い音が合わさると――声が聞こえた。



【ヒロイ ヒロイ ウミノナカ】

【リク ヲ モトメテ ヤッテクル】



 透き通るような複数の女性の声。

 いや、戦闘曲


 赤い睡蓮が枯れ朽ち、壊れた船の残骸が浮かび上がる。フィールドも湖から海へ代わり、塩草さと腐敗臭漂う。



【堕ちる 落ちる オチル】

【サァ、アナタモ――コチラヘ】



 水面から這い出すように鍵爪のように長い赤い爪、赤や金と花魁衣装に身を包み、美しいその姿は【赤いエイオキナ】の面影もない。


「綺麗……」


 あまりの美しさに見とれていると「魅了されるな!!」とリベスが俺を突き飛ばす。衝撃で倒れ、ゆっくり顔を上げると水面から槍のように突き出た鋭い尾が彼を貫いた。


「リベスさん!!」


 右胸を貫かれ、苦しそうに噎せる彼の姿に裏返った悲鳴に近い声が響く。トラウマがよみがえり、俺の手から武器がスルリと抜けた。

 ポタッポタッ……と彼の右胸から流れた血が尾を伝い、水面には赤い斑点模様を描く。それを見た瞬間――リベスがケイに見え、恐怖に囚われた俺は動けなくなる。


「あっ……あぁ……」



 全く違う敵なのに何故。

【オキナ】が■■に見える。


 貫き微笑むその表情。

 すら、仲間が消え貶す■■に見え――。



「はぁ……はぁっ……」


 呼吸が苦しく、息が出来ない。


 仲間が傷つくトラウマ。

 死ぬと言う恐怖。

 VRならではのリアルな表現。

 それらが俺を苦しめていた。


 ――こわい――


 ――怖い――


 ――恐い――


「ユナ!!」


 ――ハッ――


 恐怖に目の前が見えなくなっていると【オキナ】が爪で俺を切り裂こうと爪を振り上げていた。赤く汚れた真っ白な爪は月明かりに照らされ――キラリと光り、血のように赤い瞳に俺の姿がうっすら映る。


「イヤァァァァー!!」


 恐怖に耐えられず泣き叫ぶ。すると、鈍く重い音。背中から包み込まれるような温もりにゆっくり目を開けると――ヘビークロスボウが盾となり俺を守っていた。


「今日はここまでにしよう」


 掠れそうな弱々しい声が耳元で囁く。


「リベスさん……ごめんなさい……私、やっぱり」


「良いんだ。俺が悪かった。フェイズ戦は早かったな。次は雑魚から殺ろう」


 ヨシヨシと背後から頭を撫でられ、怒らない彼の優しさに涙が溢れる。


「先に落ちてくれ。後は殺っとく。報酬は君に渡すからお詫びの品として受け取ってくれ」


 涙でグシャグシャになった俺の顔を指で拭い、「またな」と彼は俺の目を覆った。

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