オキナ1

「リベスさーん。アバターカードありがとうございます!!」


 朝釣り上げた【赤い睡蓮の湖】で釣りをしている彼に駆け寄ると、糸を巻き上げ竿をしまう。


「あれ? 釣らないんですか?」


「今回の目的は戦闘。釣るのは面倒だから受注にする。準備は良いか?」


「あ、はい!!」



【討伐クエスト:泡沫のオキナ】

 時間:無制限

 特殊フィールド:赤い睡蓮の湖

 パーティーメンバー:二人

 クエスト成功条件:討伐

 クエスト失敗条件:戦闘不能

         :リタイア

 召喚獣:禁止

 救援:禁止



 クエスト詳細が俺の目の前に現れ、許可すると『パーティー結成』と可愛い丸文字。


「リベスさん、ご迷惑お掛けしますが……よろしくお願い致します」


「こちらこそ、いいからな」


 挨拶代わり握手すると『専用フィールドへ移動します』とナビゲーターのシルの声。


 目映く光り目を閉じる――。


 フワッと強く上品な香り。ゆっくり目を開けると丸い水面に足を付き、円を囲むように赤い睡蓮が咲き誇る水のフィールド。

 歩く度に波紋が浮かび、影のようについてくる。細かいエフェクトに楽しくなって走り回っているとヘビークロスボウが道を塞ぐ。


「こら、遊びに来てるんじゃないんだ。少しは真面目にやってくれ」


「す、すみません……つい」


 フィールドに見とれ、はしゃぐ俺を軽く叱り、彼は警戒するよう周囲を見渡す。矢を俺に向け放つと視界に『魔法・物理攻撃力上昇』『魔法・物理防御上昇』の文字。


「今回はお互いの戦い方を見るつもりで前後関係無しにする。

 オキナはHPが削れるほど姿を返る【フェイズ戦】。知ってると思うが掛かるように」


「はい!!」


 非表示にしていた武器を呼び出し、背中にズシリと重たい感覚。妙な不快感はなく、スッと無意識に引き抜くと――それはに重かった。


「えっ!?」



    【オキナ戦 start】



「あ、待って……準備が……」


 水が流れる静かな曲に女性の優しく美しいハイトーンボイスと共に、始まりを示す可愛い丸文字。

 共に水面が波打ち、突然飛沫が上がると赤くエイ。


 ピチピチピチピチ……


 水がない、と二人の足元で必死に跳ねる。



【オキナ:『跳ねる』しかし何も起きない】


【オキナ:『跳ねる』しかし何も起きない】


【オキナ:『跳ねる』しかし何も起きない】



 行動や効果を示すログが川のように流れ、武器を振りたいが触れず発展しない戦闘。

 動かない武器と葛藤する俺を見た彼は「フンッ」と思いっきり蹴り飛ばす。オキナは綺麗な弧を描き、ブーメランのように回っては水に叩きつけられ沈んで行く。


「あ……す、すみません。武器が聞かなくて」


 んっ、と力を入れるも言うこと聞かず困り果てていると「借りてもいいか?」と彼の手が俺の手に重なり、スッと優しく抜き取る。


「へぇ……いいね。面白い」


 軽く振い、踏み込むと柄と柄を合わせ双刃刀そうじんとうへ。身長を超えそうな『それ』を軽々と振るい、刃が踊るように舞う。静かながらも素早く風を切り裂き、回転しながら斬り込むと素早く双剣へと戻す。


 隙を見せない乱舞。


 ヘビークロスボウ×槍ステイクスピア使いとは思えない、見事な剣捌き今まで見てきたプレイヤーの中でずば抜けて上手く、見いってしまうほど衝撃だった。

 心の底から沸き上がる感情にグッと拳を握り締めると彼はピタッと動きを止め、笑みを浮かべた瞬間――彼の背後から先程とは違う大きな水飛沫が上がった。


 飛沫の中から一軒家ほどの【赤いエイオキナ】。

 水面に着地し、ジタバタと暴れ出す。


 すると――。



【オキナ:『暴れる』水面が大きく揺れる】



 ログが流れ瞬間、足元が不安定になりバランスが取りづらくなる。



【行動速度低下】



「きゃっ」


「おっと……大丈夫か?」


 尻餅を付き添うになり、彼が背に手を回す。


「軽くを見せる」


 そう彼は口にすると【オキナ】に突っ込んだ。当たらないよう斬り裂くながらで避け、距離が離れれば張り付こうと大きく斬り込む。

 目では追えぬ素早い動き。咄嗟の判断で移動と攻撃を繰り返す判断力の強さ。俺の考えと戦術を何段階も超える彼の【手本実力】。


「すごい……」


 開いた口が塞がらなかった。



【システム:リベスのマイナススキルにより接近攻撃力無効】



 と、ログが流れたとき――彼は水面に手を付き【オキナ】を思いっきり蹴り上げる。


薔薇しょうび乱舞」


 双刃刀そうじんとうに切り換え走り出すとバトンのように回しながら斬り裂き、白い花びらが竜巻のように巻き上がる。


「はい、どうぞ」


 バックステップで大きく距離を取りながら、俺に双刃刀そうじんとうを投げ渡す。

 すれ違い様に「嫉妬した?」と耳元で呟かれた低い声。それはとても甘く、男の俺でさえドキッとさせた。


「えっ……」


 体が突然カーッと熱くなる。


「ん、なんだ。どうした?」


 クスッと彼は笑いながら突っ立ってる俺の背を優しく押した。

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