赤い睡蓮の湖3

 泣き疲れ知らぬ間に寝てしまい、冷えた空気が暖まり目を覚ますと――湖に朝日が反射し水面がキラキラと宝石のように輝く。


「わぁ……綺麗」


 夜の景色とは一変。夜よりも花が大きく開き、フワッと上品な香りが漂う。


「リベスさん!!」


 あまりの綺麗さに彼にも見せようと声を上げると「おはよう」といつの間にか彼の姿。勢いよくルアーを湖へ投げ込み、水面にポワワンと波紋が広がった。


「何してるんですか?」


「朝御飯。現実リアで食べるの面倒だから此方で食べてに行く」


「学校……ってリベスさん学生なんですか!!」


「そう。君は?」


「わ、私もです……」


「へぇー奇遇


 軽くリールを巻き、上下に動かすとものの数秒で何かが食い付く。ググッと弧を描くように大きく竿がしなり、「ヤバイッ……朝から一戦あるかもな」と大きく足を開いては体重を後ろへ。


「あの、私も手伝います!!」


 俺よりも少し身長が低い彼が心配になり、竿を握り一緒に引っ張る。だが、グンッと引きずり込まれような力強い引き。思わず体勢を崩すと「寝起きにはキツいよな」と落ちそうになった俺の手を素早く掴む。


「あ……」


 お礼を言おうと口を開くも恥ずかしく、パクパクと上手く声が出ない。胸を押さえ、火照る頬に手を当てる。


「大丈夫か?」


 話しかけてくる彼の声すら耳に入らず、ボーッとしていると「援護するから巻いてくれ」と目の前に『黒い竿』と『糸が引っ張られ回転が止まない逃しっぱなしのリール』。


「よいしょ。よいしょ」


 巻き上げる俺の隣で彼がヘビークロスボウを構える。糸を目印に放つと刺さったか激しく暴れ、抑えようと『毒』や『麻痺』と矢を切り替えるも「が殺られるか……」とゆっくり下ろす。


「大丈夫。だいぶ弱ってるから……」


 初めと比べ明らかに引きが弱まり、ガーッと一気に巻き上げるとズッシリと重い感覚。寝起きと迫る時間のせいか、スカートなのを忘れ、大きく足を開くと「せぇーのお!!」と勢い良く引き上げる。


 バッシャーン!!


 ――と大量の水しぶきと空を覆い尽くす真っ黒な影。あまりの大きさに開いた口が塞がらず見とれていると「はぁ!? 朝からこれかよ!!」と裏返ったリベスの声。聞き慣れない声に笑っていると【泡沫うたかたのオキナ】が俺と彼の頭上を通過した。



         *



「で、どうしたんだよ」


 お昼時。賑わいガヤガヤと騒がしい学食。おにぎりを食べている圭と向かい合い、【オキナ】を逃したショックからカップラーメンが出来上がるまでテーブルに伏せる。


「ん、仲良くなった人が1人で湖に


「ブッ……も、戻した!?」


 俺の言葉に圭は肩を震わせ腹を押さえ、机を軽く叩きながら必死に笑いを堪えるも――想像したか椅子から笑い転げる。


「あー笑わないでよ。あれで戦闘エンカウント発生したら学校遅刻しちゃうし……」


 三分たったかな、と体を起こし蓋を開けるとフワッと味噌のいい香り。調味料を入れ、かき混ぜるとフッとあることを思い出す。


「あのね。【オキナ】は『ただ跳ねる』だけの魚みたいだから、学校終わったらに仲良くなった人と武器練習で一緒に戦うんだ」


 俺がエヘヘッと嬉しそうに子供のような可愛い笑みを浮かべると「へぇーなんか楽しそうじゃん」と羨望な眼差し。


「圭先輩?」


「なんか、スゲー妬く」


「へ?」


「そいつ、男? 一発殴りに行っていい?」


 拳を掌で包み、バキッと関節を鳴らす姿は『ケイ』そのもの。


「ちょ……せ、せんぱい?」


 ニコニコしながら殺気放つ圭に怯えていると、ブブッとテーブルに置いていたスマホが震え鳴る。手に取ると【プチエリ】からの通知。


『rさんから贈り物です』


【プチエリ】とは、ヘッドセット無しでユーザーと交流やアイテム交換が出来る【エリクシル】と連動しているスマホ専用アプリ。ゲーム外でも仲間と話せると話題になっており、ゲーム共に交流アプリも上位に入る。


rアールさん?」


 知らぬ名前に首を傾げ開くと――「えっ……えぇ!!リベスさん!!」と彼からアバターカードが届いていた。

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