赤い睡蓮の湖2

 湖際に星空を邪魔しないよう、ランタンがほんのり照らす。シート代わりに寝袋に腰かけ、夜空を見つめていると「飲むか?」と黒いマグカップが目の前へ。


「悪いな、野宿で」


「いえ、ずっと街にいたので……。こんな素敵な場所初めてです」


「そうか。気に入ってくれたなら良かった」


 嬉しそうに微かに笑うも話が途切れ、「あの、さっき『私の気持ちが分かるって』と言ってましたよね?」と話を切り出す。


「あぁ」


 そっけない返事。しばらく黙り込むと、小さく溜め息を付きながら「俺の場合、喰い殺されたわけではなく『PK射殺』だ」と昨日の戦闘から想像出来ない言葉。


「えっ……」


 驚き顔を向けると、彼がフッと笑う。


「なんだ。意外か?」


「だって、あの時そんな風には……」


「ソロだからそう見えたんだろ。とはいえ、の話だが……これでもまともに戦えるようにはなった。あの頃はヘッドセットすら付けられず、恐怖のあまり不安定だったからな」


 腕を組み、少し考え込むと思い出したように。


「待てよ。一昨日、


「こ、殺した!?」


「いや、そのもあったか……」


「えぇ!? 何人殺ってるんですか!!」


 昨日のカッコ良さが嘘のよう。あまりのギャップにクスと小さく笑うと彼が薄く微笑む。


「君は偉いな。克服しそうと自ら手を伸ばしたろ。暴食グラにリベンジか?」


「えっなんでそれを……」


「見れば分かる」


 彼は隣に腰かけ、正面にあるランタン横に突き刺していた槍をじっと見つめ――目を閉じフッと笑った。


罪咎種ざいこくしゅは『VR』だからこそ、その特性を活かし生み出された【人に恐怖を植え付ける】存在。

 ある意味、運営からの『』じゃないかと俺は捉えてる。

 仲間を失い、殺される恐怖から――どう立ち向かい、勝ち上がるのか。試されてるんだと思う。俺の勝手な解釈だが……」


「じゃあそれって、モンスターってことですか?」


「あぁ、そうなる。だから、君が武器を握れなくなったのは『』と言うわけだ。悪いことじゃない」


 武器を握れないのは弱い自分のせいだ、と自分を責めていたが、真逆な彼の言葉に締め付けられる苦しさではなく『悔しい』と体が火照り、込み上げる涙。

 ポロッと涙が頬を伝う俺を見て彼は慰めるようポンポンと優しく頭を撫でる。


「あの盾役タンクはギリギリまで君を庇い、他メンバーは戦闘不能者を含め離脱したのは間違ってない。むしろ、。誰1人


 ――誰も悪くない――


 その言葉に溜め込み我慢していた気持ち一気にが溢れ出す。手で顔を覆い、恥ずかしいと声を殺していたが「思う存分泣いていいぞ」と優しい言葉に背中を押され、泣き枯れた声が夜空に響いた。

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