短編ホラー
夏梅
えにっきをはじめました。
絵日記を始めました。
近所のスーパー「あおき」で買ってきました。
ノートだけじゃなく、ボールペンも買いました。
お母さんは「どうせ続かないでしょ」と言いました。
そうです。いつも三日坊主です。でも、今回は続けられそうな気がするんです。
絵日記を書くために散歩に行こうと思います。
天気は晴れていました。雲ひとつない青空です。どんどん歩いてみると、少し汗をかきました。これだけじゃ絵日記を書けません。
どんどん歩いてみました。川沿いの土手にぶつかりました。平日なのに、いろんな人が歩いています。犬の散歩をする人、ジョギングをする人、スーツの人。犬の種類は多分マルチーズです。詳しいんです。犬には。
犬と目が合いました。にっこりされた気がしました。とても嬉しく思いました。
でも、撫でることができませんでした。おばさんが撫でさせてくれませんでした。おばさんとも目があったのに、立ち止まってくれませんでした。とても悲しいなと思いました。
歩くのを再開させました。
次第に、遠くから下校途中の小学生たちが元気に歩いてきました。
「こんにちはー!」
小学生たちは私の少し先を歩いていたおじいさんに大きな声で挨拶をします。
「はい、こんにちは」
おじいさんは返事をしました。
次は私の番です。挨拶が来たら、挨拶し返そうと思いました。
小学生の一人と目が合いました。みんなで目を見合わせました。
「こんにちは」
私は我慢できずに小学生たちに声をかけました。
「こんにちは」
小学生の一人が挨拶を返しました。
それで、終わりでした。他の子は挨拶をしませんでした。おじいさんには全員で挨拶をしていたのに、私には一人の挨拶しか返ってきませんでした。
私はなんだか悲しい気がしたけど、気を取り直してその集団を見送りました。ドタバタと土手を走っていく子供たち。子供だからしょうがないです。
少し、飽きてしまったので、橋を渡って反対側から帰ることにしました。
絵日記の材料はあんまりなかったけど、初日なので少なく書いてもいいかもしれないと思ったからです。
反対側の道は、さっきまで歩いていたところとは違って影が多く、少し肌寒く感じました。時間帯的にしょうがないのかもしれません。
人も反対側ほど歩いていませんでした。影になってしまうからか、雑草さえもあまり生えていませんでした。
太陽がないだけで、反対側なだけで、こんなにも世界が違うことが面白く感じました。あ、これを書こう。
私はボールペンを取り出しました。立ちながら書くのは少し難しいので、端っこに寄って座りました。コンクリートの冷たさを感じました。
そこから反対側の土手を見ると、太陽に照らされてキラキラと輝いていました。
とても綺麗だなと思いました。
この景色を絵日記に描きました。半分に書くところを割って、半分は明るく。半分は暗く。
15分も座っていると、寒くなってきました。太陽に照らされていないからです。
描き終わりました。文章は家に帰ってから書きます。寒くて、早く帰りたかったからです。
ボールペンをしまって、来た道を戻って家につきました。
「ただいま」
玄関を開けるとお母さんが立っていました。
「どこに行っていたの?」
「散歩だよ」
「どうして?」
「絵日記を買ったでしょ。家の中にいても絵日記が書けないから、外に出て絵日記になることを探したの。そしたらね、犬がいてね、多分マルチーズだと思うんだけど」
「絵日記を書くために、明日も散歩に行くの?」
「うん。気が向いたら」
「そう。あなたは三日坊主なんだから、続かないわ」
「なんだか今回は続きそうな気がするんだよね」
「そう、でももう外に出ないでね。外に出るなら、せめて髪の毛を整えてからにしてね」
それは嫌だな。と私は思いました。お風呂が嫌いだからです。
お風呂に入るぐらいだったら、絵日記をやめてしまった方がいい。
「わかった?」
「わかった」
お母さんがリビングに向かって歩いて行ったので、私は玄関を上がりました。
私は自分の部屋に行きました。絵日記を机の上に放って、眠りにつきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます