女子高生の町案内

タヌキング

引っ越し

「叔母さん、今日からお世話になります。」

そう言うと叔母さんはニコニコと私に微笑んでくれた。この微笑みを見れただけでも、この町に来てよかった。

「うんうん、それじゃあ二階の部屋が美和子ちゃんの部屋だからゆっくりしてね。」

「はーい、じゃあお言葉に甘えて。」

叔母さんの家の二階の部屋は元々叔母さんの子供の和美ちゃんの部屋だったが、今日から私が使わせてもらうことになった。部屋の中はこじんまりしており、部屋には小型のTV、小さなちゃぶ台、一人用のベッドが置かれていて、壁には一時代前に流行ったアイドルのポスター等が貼られている。

凄い違う人の部屋感がするが、そこは慣れていくしかないだろう。

「ふぅ~。」

ため息を着きつつ、私はベッドに前のめりに倒れ込んだ。心機一転の為に前の家の荷物や家財道具は殆ど売ったり捨てたりしたので、大きめの旅行鞄とこの身一つの引っ越しだったが、駅の乗り継ぎ等もあり結構疲れが溜まっていた。


私の名前は田上 美和子(たのうえ みわこ)。年齢は26歳で趣味は読書の平凡な女である。東京で一応大手の会社で働いており、OLとして働いていたのだが、訳あって仕事をやめてこの町に移り住んできた。

江里子(えりこ)叔母さんは私の母の妹さんで、早くに旦那さんを亡くし、女手一つで和美ちゃんを育てた凄い人だ。私が仕事をやめて茫然自失になっていたのを母から聞きつけて、この町で一緒に住まないかと申し出てくれたのは本当に感謝しかない。


東京にはもう私の居場所はなく、とにかく何処かに逃げ出したかった。ノイローゼ一歩手前ぐらいにはなっていたと思う。

さて、ここから先の人生プランは何も考えてないけど、どうしたものか。

そんなことを考えていると、叔母さんの家のチャイムが鳴った。お客さんでも来たのだろうか?

耳をすませば一階の会話が聞こえてくる。

「あら?ナギサちゃん?どうしたの?」

「こんにちは江里子さん。和美姉ちゃんの従姉さんが来てるんですよね?是非挨拶をしたいと思いまして。」

挨拶?なんで?

ちなみに私はこの町に来たこともなく、知り合いは江里子叔母さんと和美ちゃんだけである。つまり全くの他人が私に挨拶に来たことになる。一体どういうことだろう?

「美和子ちゃーん!ちょっと来てくれる!」

叔母さんの声に私はベッドから起きて、「はーい」と返事をして下の階に降りていった。事態は未だに飲み込めない。


一階に降りて玄関に向かうと、そこには紺色の制服に身を包んだ女子高生らしき女の子が立っていた。

背は高く170センチはあるだろうか?黒い髪は前髪は真ん中で分けられていて、後ろ髪は肩まで伸びている。長細い顔で顎は尖り気味、目は三白眼で爬虫類系、頬には点々とそばかすがあり、非常に特徴的のある女の子である。


「はじめまして、私は鳳 渚(おおとり なぎさ)と申します。歳は17歳の高校2年生、好きなものはお肉、嫌いなものは大量のひじきです。この度はお姉さん木漏れ日町に来られたとのことで、ご挨拶に参りました。」

そう言ってペコリと御辞儀をする鳳さん。最近の女子高生にしては丁寧過ぎる自己紹介である。

「は、はじめまして、田上 美和子です。」

得体の知れない女子高生に警戒しつつ、名前を名乗る私。たどたどしいが一応コミニケーションスキルがまだ失われて無かったようだ。

このあと、叔母さんが渚ちゃんの説明をしてくれた。

「この子は鳳 渚ちゃんでね。和美とお友達だったのよ。ちょっと変わってるけど、優しくて面白い子よ。」

「はい、私はちょっと変わってます♪」

叔母さんの説明の後に、えへん!!と胸を張って誇らしげな渚ちゃん。なるほど確かに変ってる。

「こ、これから宜しくね。」

「はい、末永く宜しくお願い致します♪」

スッと渚ちゃんから右手を差し出されたので、私も右手を出すと、渚ちゃんは両手で私の右手を握ってブンブンと振った。嬉しいのか知らないけど、ちょっと痛いな。

と、ここで叔母さんから爆弾発言が飛び出した。

「そうだ美和子ちゃん。これから渚ちゃんに町を案内してもらったら?」

「へっ?」

これには私も目が点である。町のことは知りたいが、何故に見知らぬJKに案内してもらわなくちゃならない。

「い、いやぁ、遠慮するよ。渚ちゃんも忙しいだろうし。」

私はやんわり断ろうとしたのだが、渚ちゃんは目をキラキラさせているので嫌な予感がした。

「いえ、やらせてもらいます♪元よりそのつもりでしたから♪」

「えぇ・・・。」

思わず心の声が漏れてしまったが、こうして何故か変わり者のJKに町を案内されることに相成ってしまった。



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