キク

 鍵垢に自己満足で投稿するも【鍵】のため誰も見てくれず、彼の欲は満たされなかった。


 冬にしては薄手のVネックの白シャツに丈長めの斜めジップの黒パーカ。軽度のダメージジーンズ、黒の厚底ブーツ。シンプルなチェーン付きリングが左指中指と小指をおめかし。黒髪で毛先や表面だけはカーキー色の前髪重めの無造作マッシュヘアー。目元が隠れよく見えないが幼い顔立ちで、黒のようでよく見れば濃いピンクの珍しい瞳の色は人を妙に引く。

 

 “彼”こと名は”きょう“。

 二十後半の自称芸術家。


 赤く染まった右手を舐めながら外に停めていたBMXに乗り、家代わりに泊まってる訳有りビジネスホテルへ。ただいま、と部屋に入るやつけっぱなしテレビから聞こえる速報。


『○○県○○市の森にある廃墟で肝試しに来た男女別が一室で女性の死体が――』


 と、画面に堂々とモザイクをかけられた自分の作品にニヤケ、SNSを覗くと話題となり映像や画像が拡散。“酷い““惨い””残酷”と言われるも気持ちがよく胸に手を当て浸る。


 ――皆が観てる。もっと作品を作らないと――


 罵声が創作意欲を増し、SNSに投稿された”展示会“の呟き。


 ”開催中前日まで受付可能。

 有名人・無名・誰でも歓迎。会場は――“


 呟きを観るや目を閉じ何を作ろうかと目を閉じる。皆が驚き、声上げるモノと悩んでいるとテレビに映った【大菊】が目に入った。


「ねぇねぇ、坊や。お手々見せてくれる?」


 夜行性の彼が珍しく昼頃外へ。近くの公園で遊んでいた男の子に話しかける。じっと幼く可愛い手を見め周囲を見渡し親が居ないか確認。そして、ニコッと微笑む。


「良いものあげるからお兄さんの遊ぼっか」


 彼の優しそうな声とパーカーのポケットからチラリと見せたペロペロキャンディーに男の子は目を輝かせた時、口を塞ぎ抱き上げ、近くのビルの裏へと連れ込む。


 んー、んー、と塞がれながらも泣く姿に「怖くない、怖くない」と言いつつ彼が取り出したのは折り畳み式ナイフ。男の子に馬乗りになるとハンカミを口の中に押し込み、指を掴むや爪と皮膚の間にナイフを差し込む。


「ん゛ー」


 と痛みに力む声。涙溢れ、喉から声が絞り出しそうな程の体が反れると爪の脇から血がジワッと血が滲み、強引に引き剥がす。子供は痛みに足をバタつかせ、彼は綺麗な爪に歯を見せ笑う。


 ――やっと一枚――


 器用にナイフの手に乗せ、微かに差し込む。太陽に照すと”あと何枚だっけ“と首をに練り向き直る。


「もっとくれる? たくさん必要なんだ」


 優しくも邪悪な笑みを浮かべ、一つ。また一つと爪を剥ぐ。だが、取れたのは手足を含め二十枚。まだ足りない、と男はハンカチを喉に詰まらせ息絶える子供を見ながら”アハハ“と表通りから聞こえる女性の声に顔を向けた。


 

 作品が完成したのは展示会前日。



 寝る間を惜しみ。これまで何人の人に話しかけ、襲ったのか分からない。一部血塗れになった部屋で愉しそうにグルーガン片手に作り上げては完成した作品に涙を流す。



 それは想像以上の素晴らしい出来だった――。



 襲った際に付いた溜め固めた血を“ガク”に大人の足と指の爪で“大きな花びら”。徐々に上へと行くほど子供、幼児と細かく小さくなっていく。

 爪のはずなのに滑らかで丸い菊独特の形を鮮明に表現しており、技術としては優秀だろうが、やっていることはとても残酷で惨い。


 一瞬満足する彼だったが何か物足りないようで、前にプレゼントを送る際に余っていたメッセージカードを取り出し魅力を伝えようと文字を書く。


【タイトル:キク】

『生きた人間の新鮮な爪を使った作品。美しいでしょ、


 来場者に向け書くはずが、彼はある人に向けてメッセージを書き、静かにキスをした。話したこともない、会ったこともない。自分が事を起こすと必ず足を運ぶ“正義の味方”に。

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