人間アート
無名乃(活動停止)
BAN
彼は人間が嫌いだ。
だが、別の意味で大好きでもある。
幼い頃、“彼”は交通事故に遭った。乗っていた車は居眠り運転なトラックと前方のトラックに挟まれ、彼が乗っていた席は運良く隙間があり助かったが、父親、母親、妹の姿はなくグシャグシャになった鉄の塊からジワリと滲む真っ赤な血。
全身を打ち付けた痛みから溢れた涙で視界が潤んでいたが、それは何故か宝石のように綺麗で――。衝撃で千切れた誰かの“腕”。筋肉質で見覚えある“それ”は言葉に出来ないほど愛おしかった。
激痛走る血だらけの手で大切そうに腕を抱き締め、救急隊に助けやれるも絶対に離さない。病院に行っても、腐っても、悪臭を放ち虫が湧いても――。
この事件で彼は何かに目覚めた。
*
あれから数年――。
二十後半となった彼は夜な夜な街をふらつき、ナンパしては頻繁に人の記憶から忘れ去れた廃墟へ連れ込む。
真っ暗なボロボロの部屋。彼の手にあるジッポライターが唯一の明かりで目の前には今にも壊れそうな椅子に腰かけるは紐で口を塞がれた見知らぬ女性。歩いてたら目に入り、初対面なのに告白したとか。バカな話だが人一番惚れてしまう性格らしい。
「どうも、お姉さん。オレ、人間で芸術的な作品を作るのが大好きな自称芸術家。オレの作品になれること光栄に思いなよ」
彼は必ず“材料”に自己紹介をする。理由は特にないが何も言われず殺すよりは礼儀あり、という謎のプライド。
んーんー唸り、泣く女性に彼は笑って近付く。
「怖くない、怖くない」
子供のような可愛い笑みで。
「ほら」
と、爪先と爪先が触れる距離まで近付き、俺は女性の額に冷たく重い“なにか”を押し付け引く。
BAN――。
室内に乾いた音。
誤魔化すよう薬莢が涼しげな音を放つ。
カランカランッと――。
彼は静寂に包まれた空間にフッと鼻で笑うと眉間を撃ち抜かれ、突然の出来事に目を丸め、グワンと仰け反る女性の背後に目を向けた。
薄汚れたコンクリートに咲く真っ赤な花。
弾の衝撃でベッタリと容赦なく張り付き、脳や骨、肉の破片が程よく散りばめられ、雌しべ雄しべ。または花びらのように浮き出る。
彼からしたら、それは自然に咲く花よりも何倍も美しかった。あの
「フフッ良い花が咲いた。悪くはない」
クラシックカメラを構えパシャリ。
スマホを構え、ハイチーズ。
彼は機嫌良く笑うとSNSの鍵垢に呟く。
タイトル『花』
1万円~ *一品限り、と。
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