回遊処女
光野彼方
第1話
◎回遊処女
1話
◉マカオ上陸
僕が雀荘『積み木』にいた期間はわりと長かった。辞める頃には数人の年齢の近いお客さんとは個人的に連絡を取り合う仲にもなっていた。そのうちの1人である桐谷くんが、辞めるならさ、一緒にマカオ旅行行こうよ。と誘ってきた。
僕は海外旅行をしたことがなかった。これはいい経験かもと思ってその誘いに乗ることにした。ちなみに僕は日本語しか話せないがなんとかなるだろと思った。
桐谷くんはマカオ慣れしていて現地で1番安い宿を知っていた。ホテルのようだが一泊30香港ドルと格安とかいうレベルを超えてた。当時の日本円でそれは約300円のことだった。そんなんあんの。
宿に着いたらとりあえずご飯を食べに行きたかったので「腹減ったからどっか食う所案内してよ」と言ったら「言うと思ってもう決めている所があるよ」と言う。気が利く。
行き先は宿から一回しか曲がらなかった。それは最短距離ではないのだが、のちに僕だけで行動する時のために場所を覚えさせる意味があったのだとあとになって理解した。
そこで僕は聞いた事はあるけど食べるのは初めてのものを食べた。小籠包だ。
ここには醤油はない。何をつけて食べるのかと聞いたら魚醤というのがあるという。ナンプラーと呼ばれるやつだ。それを使うのも初めての経験で恐る恐るちょっとだけかけてみた。
「それじゃあ足りないよ」と言われた。なんでだ、とりあえずこんなもんで試してみたいのだが。
「ちょっとおれが食べるとこ見せるから見てて」
そう言って桐谷くんはレンゲみたいなスプーンみたいなよくわからないもので小籠包を取るとマイ箸を取り出してそれを割った。
もわっと熱そうな湯気が立ち上り熱熱のスープが中から出てきてレンゲみたいなものに広がった。なんだこれ。
「小籠包ってのはこういうもんなんだよ。だからほら、スープで薄くなるからそれだと少ないよ」
なるほど!食べ方はわかった。僕も同じようにする。割り箸を使って中を開けて…。
もわわっ!と熱そうな湯気が出てきた。良いにおいがする。絶対僕の好きなやつだ。魚醤を追加でかけて…フーフーっと冷ましたら、そーっと。
ぱく
「あっつ!うっま!熱!
ウマーーーい!」
想像してたより美味かった。皮?みたいな薄い部分には内側から味が染みていて、魚醤の塩味がぴったりマッチする味。
「うまいだろ!ここの小籠包は日本では食えない美味さだから堪能してくといいよ。こんなに美味い小籠包っておれも日本じゃ出会えなかったから」
「へええーー!これだけでも、来てよかったよお!うまいなあ。うまい!」
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