第9話
薄暗い路地でも光輝くような金色の髪に、澄んだ青空のような青い瞳。
背が高く痩身だが、ラネを庇ってくれた腕は力強く、相当鍛えているのだろうと察せられた。彼は片手でラネの腕を掴んでくれた男を引きはがし、さらに空いた手で支えてくれたのだ。
「……お前、ランディか。改心したというのは、嘘だったようだな」
呆れたような声だが、底には相手を威圧するような響きがある。
黒いローブの男は、敵意がないことを示して両手を上げ、大きく首を横に振った。
「とんでもない! 俺はただ、このお嬢さんがひとりでこんなところを歩いていたから、安全な場所まで連れて行くつもりで」
「脅していたようだが?」
「こんなところに長居をしていたら、危ない目に合うぞって警告するつもりだったんだ」
ローブを脱ぎ、露になった顔は思っていたよりも若く、まだ少年のように見える。
茶色の髪は肩まで長く、ひとつに結んでいる。あまり身綺麗にしていないから、彼もまたこの辺りの住人なのだろう。
だが同じ少年でも、路地裏からラネを見つめていた彼らとは、まったく違う。だからその言葉を信じることにした。
「わたしを助けようとしてくれたのね。ありがとう。暴れてごめんなさい」
「……本当に、世間知らずのお嬢様みたいだな」
呆れたような声でそう言うランディを、助けてくれた金色の髪の青年が小突く。
「彼女の好意に感謝しろ。そう言ってくれなかったら、詰め所に突き出すところだった」
「そ、そんな。すみません、お嬢さん。ありがとうございます」
頭を下げるランディに、ラネは慌てて首を振る。
「わたしはお嬢様じゃないわ。田舎から初めて王都に来て、人に酔ってしまったの。だから休める場所を探していたら、こんなところに入り込んでしまって」
「なんだ、田舎もんか」
そう言ったランディは、再び小突かれて頭を押さえる。
「痛い! あんたの力は常人離れしてるんだから、手加減してくれないと頭が砕けてしまうよ」
「まったく、懲りていないようだな。次はないぞ」
そう言うと、ランディは慌てて逃げて行った。
それを見送った彼は、ラネに向き直る。
「気分が悪いところに、騒がしくして申し訳ない」
「いいえ、助けていただいてありがとうございます。わたしはラネです」
そう名乗って頭を下げると、彼は穏やかに微笑む。
「俺はアレクだ。安全に休めるところに案内しよう」
そう言って、大通りから少し離れた公園に連れて行ってくれた。
こんな大都市の真ん中だというのに木々が生い茂り、噴水まである。
導かれたベンチに座り、ラネはほっと息を吐く。
「ありがとうございます。楽になりました」
「それならよかった」
心配そうにラネを見ていたアレクは、そう言って笑みを浮かべた。
その整った容貌に今さら気が付き、胸がどきりとする。
「俺も、生まれは王都ではなくて、遠く離れた海辺の小さな町なんだ。慣れるまでは、結構大変だったよ」
そう言って、目を細める。
田舎から出てきた者同士という共通点に、緊張していたラネも次第に打ち解けてきた。
「わたしは山辺にある小さな村から来ました。海は、まだ見たことがないんです」
「そうか。いつか見てみるといい。ところで、君はどうして王都に? もしかして、明日の結婚式を見に来たのか?」
「……いえ。あの」
どこまで話していいのか。どう伝えたらいいのか。
少しだけ迷う。
アレクはそんなラネの戸惑いに気が付いたようで、謝罪の言葉を口にした。
「すまない。出会ったばかりだというのに、不躾だった」
「そんなことはありません。ただ、わたしたちはエイダ―と同じ村の出身で。それで、結婚式に招待してもらったのです」
それだけを告げる。
「エイダ―の?」
彼は驚いたようにそう言った。
どうやらエイダ―をよく知っている様子だ。
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