09話

「花さんここにいたんですね」

「ん、保村はなんで来た?」

「仲南先輩達が見つからなかったからですかね」


 初名達がいない? 珍しい。

 少し気になったから上階に行ってみると教室にも廊下にも確かにいなかった。

 一応、そのままの流れで二美ちゃんの教室も探してみたものの、それでも見つかることはなくて余計に気になり始める。


「わ」


 急に頭に触れられて振り返ってみたら探していた初名だった。


「花、こんなところでどうしたのだ?」

「初名っ、いままでどこにいたの?」

「階段の段差に座って弁当を食べていてな、探したか? それならすまない」

「いてくれればそれでいい」


 初名がいてくれると安心する、二美ちゃんがいてくれると……なんだろう。

 初名にばかり意識が向いていて寂しいとかそういうことはないけど、楽しいとか嬉しいとかなんかそういう言葉が出てくる感じじゃない。

 ちなみに保村に対しても同じで来てくれたら相手をする程度……だと思う。


「二美ちゃんは?」

「同じクラスになれなくて未だに拗ねているのだ、だから今日は一人だった」

「もう二十日ぐらいは経過しているのにそうなんだ、二美ちゃんって子どもかも」


 だからこそか、見ておかなければならないような対象なんだ。

 でも、初名は違う。


「保村、邪魔をして悪かったな」

「いえ、気にしないでください」

「そうか。それでは私はもう教室に戻る――花?」

「……やっぱり初名が好き」

「そうか、好きになってくれてありがとう」


 この柔らかい笑みを他の子に見せてほしくない、抱きしめられるのは私だけがいい。

 どうして直接アピールをするんじゃなくて変なことをして意識を向けてもらおうとしたんだろうか。


「ふふ、くっついてしまいましたね」

「ああ、いつものことだから違和感はないが」


 同じ学年だったらよかったのに。

 そもそもちゃんとアピールをしていたとしても後輩と同級生ということで最初から勝負になっていなかった。

 魅力で負けるなら仕方がないけどそういう条件みたいなもので負けることになるのは嫌だ。

 だけどもうこの時点でその嫌な負け、敗者となってしまっているわけで……。


「でも、二美先輩がいるのにいいんですか?」

「花がやめたくなるまでは受け入れようと思う」

「そういうものなんですね」


 なのに初名はこんな風に言ってくれる。

 それでもそのまま全てを信じて自分の好きなように、やりたいようにやってしまうのは駄目だ。


「が、頑張って我慢をする」

「花次第だ、ちなみにキス以外なら受け入れるつもりでいるぞ」


 だ、駄目だ、初名は悪魔じゃないけど悪魔の囁きだった。

 そしてこういうときに限って二美ちゃんが止めるために来ないのも問題だった。

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