三十五話 双子のVtuberの秘密
楽々――side。
先日、とあるキャンペーンを見つけた。
「なにこれ……Vtuberしてみませんか?」
そこには、Vtuberの発足キャンペーン大会が書いてあった。ただ、それ自体に正直興味はない。
けれども、そのキャンペーンの賞品に驚いてしまった。
私は、これだ! と思った。
すぐに沙羅を呼び、スマホの画面を見せる。同じくVtuberには興味を示さなかったが、賞品に気づくと声をあげた。
「これ……いいですね。でも、私はVtuberなんてわかりませんけど……」
嬉しそうに笑顔を浮かべたが、すぐに肩を落とす。というものの、私も同じ。
しかしそこには新人のみ、と書かれている。これなら、戦えるのかもしれない。
「キャンペーンが終わって続けるか続けないかは本人次第らしいし、やってみない? きっと……喜ぶよ」
「そうですね……。不安はありますが、挑戦してみたいです!」
そうと決まれば行動が早いのが私たちの良いところだ。
Vtuberについて詳しく調べると、アバターというものが重要だとわかった。
「有償がほとんどみたいですが、どうしましょうか? お金はあまりないですし……」
ガワと呼ばれるもので、可愛ければ可愛いほど有利なのは間違いない。
後々の動画の題材も考えなければならないけれど、まずはスタート地点を有利に立つことが重要。
「うーん……何か手がないかな……」
色々と考えていると、一つの妙案が思い浮かぶ。
「楽々、どうしたんですか? 棚から名刺なんて取り出して」
「ちょっとだけズルいことしようかなって」
その一つ、インターネット配信のに強いと言っていた人の名刺をとりあげた。
「この人に、頼んでみよう」
◇
「これでいいのかな? カメラセッティング出来た?」
「はい、出来ました! これできてますか?」
それから数日後、私たちはノートパソコンと睨めっこしていた。
更に可愛い双子のアバターも。
「よし、魂注入できたね」
「わ、凄いです。私が動くと、アバターも動きます」
「チッチッチッ、3Dモデルと言いなさい」
もらった名刺先に連絡し、私たちは後日雑誌のモデルをすることを引き換えに、Vtuberの詳しい人を紹介してもらった。
少しズルいかもしれないけど、これは戦いなのだ。
「最近のトレンドはやはりゲーム動画ですね。ホラーがいいと思います」
その間に、沙羅も情報収集を終えていた。数日前までVtuber? という二人だったが、今ではてぇてぇ、魂、バ美肉という単語も知っている。
……って、ホラー!?
「やだやだー! ホラーはやだー!」
「ダメです。いや、むしろ怖がっているほうが視聴者ウケはいいはず……やはりホラーで行きましょう」
「いやだいやだー! 怖いもん!」
「いいですか楽々、怖がる時は手足を動かして、更に声を大きくあげるのですよ。それでいて可愛らしく、それでいて慎ましく」
「な、なんでそんな詳しいの!? 沙羅だって初心者だよね!?」
「私はもうVtuberの虜なのです」
「ど、どういうことなの!?」
ということで、沙羅教官の元、私たちは初動画を取り終えたのだった。
◇
沙羅――sied。
「怖かった……ブルブル……」
身体を震わせる楽々ですが、私は満足していました。
おそらく、いや、間違いなくこれは”バズります” 。
「な、なんでそんな不穏な笑みを浮かべてるの沙羅……」
「楽々、これは勝利の笑みですよ」
キャンペーン終了まで、走り抜けますよ!
「ほら、次の動画の撮影をしますよ! 次もまたホラーです! 撮りためしておかないと」
「え、えええ!? や、やだよおお! もっとほのぼのした動物の谷とかしようよおおお」
「そんなのは”バズりません” 私たちはホラー姉妹として売り出すのです」
「や、やだああああああ」
そうして私たちは数日分のホラーゲームを取りため、満足の出来を終えました。
後は編集して出すだけです。
「ね、ねえ」
「はい、どうしましたか?」
「雑談とか……しない? その、ホラーばっかりじゃちょっとね? ね、ねえ?」
まだ震えている楽々ですが、本当に必要かどうかをじっくりと考えます。
うーん……ありかもしれませんね。普段の気持ちを出すのも、Vtuberとしての人気につながるでしょう。
「わかりました。雑談配信、”あり”とします」
「良かった……ホラー……さよなら……」
「でも、明日は別のホラー作品をするので、今は無料ゲームが多いので嬉しいですね楽々」
「い、いやあああああああああ」
楽々の悲鳴が、響いていました。
あ、今の声いいですね。でも、配信外なのでもったいない……。
「楽々、もう一度叫んでもらえますか? マイクをONにしました」
◇
そうして二週間後、キャンペーンを終えた私たちは、やり切った気持ちで感謝の動画を配信しました。
初めは賞品目当てでしたが、リスナーさんたちと会話することで、この世界のことが好きになりました。
「もうホラーは嫌だ……ホラーは嫌だ……」
あ、楽々は違うかもしれませんが。
そして見事、私たちは新人Vtuberとして快挙を達成し、賞品をもらえることになりました。
「良かったですね、楽々!」
「え、あう、うん……。辛かったけど、楽しかった! いやでも、辛かったかも……」
数日後、学校帰りの律くんを待って、二人で驚かせます。
「わ、わああ!? ど、どうしたの?」
「ふふふ、一緒に帰ろー!」
「はい、一緒に帰りましょう」
ポケットには、早く見せたくてたまらないチケットが入っています。
楽々も同じらしく、うずうずしているのが表情でわかりました。
「ねえ、律」
「どうしたの? 何か、二人とも凄く笑顔だけど」
どうやらバレてしまっていたらしいです。でも、もう言ってもいいのです。
「沙羅、どっちから言う?」
「一番頑張ったのは楽々です。言ってください」
首を傾げる律くんに、私はチケットを差し出しました。そして、楽々が元気よく言います。
「……飛行機のチケット?」
「次の連休、律の誕生日じゃん? 私たちの誕生日後だし、良かったら三人で私たち叔父さんと叔母さんのところに一緒に行かない? すっごくいいところだし、見てほしいんだよね。どうかな?」
「はい、どうでしょうか? 私たちの育て両親に、律くんを是非紹介したいのです」
Vtuberのキャンペーンには、無料で飛行機チケットをプレゼントすると書かれていました。
私たちの実家はかなり遠く、戻るとなると交通費が凄く高いのです。
バスや新幹線で帰るとものすごく時間がかかるので、学校のことを考えると飛行機しかありません。
とはいえ、お正月でもないのに帰るお金はなく。そんな時、楽々が飛行機チケットを賞品でもらえるキャンペーンを見つけたのです。
ただ、これはサプライズです。
律くんが着いて来てくれるかどうか……。
「本当!? すっごく嬉しいよ! 二人の両親に会ってみたかったし、どんなところで育ったのか知りたかったんだ。でも、すっごく高いんじゃないの?」
しかし律くんは、今までで一番喜んでくれました。それには楽々と私もホッとします。
ああ、良かった。嬉しいです。
「ふふふ、それには深ーいわけがあってね……ああ、ホラーはもうやりたくない……」
「そうですね楽々、帰りながらも話しましょうか」
「え、どういうこと?」
そうして私たちは、律くんにプレゼントを渡すことが出来たのでした。
けれども、Vtuberが凄く楽しかったので、これからも楽々と続けることになりました。
待っていてくれるファンがいるということが、こんなにも嬉しいのだと教えてくれたのです。
でも……ホラーはもうしたくないそうです。
ちょっと……残念です。
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