三十四話 双子のVtuberは、俺の知っている人?
Vtuberをご存じだろうか。
いや、おそらくは大体の人間が知っているだろう。
一言でまとめるならば、「2Dまたは3Dのアバターを使って活動しているYouTuber」のことだ。
俺は昔からアニメが好きで、漫画が好きで、ライトノベルが好きで。
その流れに身を任せているとVtuberも自然と好きになった。
高校入学直後は忙しくもあって離れていたが、気になるツイートを見つけてしまい、とあるVtuberの動画を開いていた。
『どうも、妹のラーララですー!』
『は、初めまして、姉のサーララです』
その動画は、つい先日更新されたものだ。
設定? なのかわからないが、双子の天使で、アバターには純白な羽根がと天使の輪かっかが付いている。
驚いたことに、たった一つの動画で、再生回数が数万を超えていた。
軽快な妹の喋りと、大人しい姉の二人が可愛らしく、それでいて本当に双子なのかと思わせる口調がリアルなのだ。
それがウケたのかコメントも好意的なのが多い。
しかし俺は、スマホを見ながら固まっていた。
『えへへ、今日はゲームでもしようかなって思いますー! でも、怖いのが苦手なので、姉にさせまーす!』
『え、ええ!? 聞いてませんよ!? ラーララ!?』
『ふふふ、いいでしょー! ほら、やるよー!』
『ふ、ふにゅう……』
ラーララ、とサーララ。
妹と姉。
双子姉妹。
……偶然とは思えない。とはいえ、別に詮索する理由もない。
ただ気になってしまうのは仕方がないので、その動画を見ていると、とても可愛らしかった。
さっきまで元気が良かったはずのラーララは震えており、元気がなさそうだったサーララが静かに敵を倒していく。
この妙なコミカルさがウケのだろう。
「うーん、考えすぎかな……?」
そんな疑問を抱きながらチャンネル登録を済ませると、タイミングよく生配信の通知が表示される。
ラーララ、サーララの雑談配信、と書いている。
「もしかしたら……」
楽々と沙羅なら雑談でわかるかもしれない。探るというよりは、興味本位だ。
ピッタリの時間に、配信が始まった。
『こんばんはー! ラーララとー?』
『ど、どうも、サーララです』
どうやらまだ慣れていないらしく、読み上げ機能だったり、コメントの拾い上げに苦労しているらしい。
その初々しさが可愛くて、コメントには『てぇてぇ』(溺愛)と書かれている。
声は凄く似ている。というか、同じだ。
掛け合いもそっくり。
ただ一つ気になるのは、二人がVtuberをするとは思えないということ。
アバターもしっかりしているので、お金がかかっているのかもしれない。
「うーん、でも、やっぱり似てるんだよなあ」
『じゃあ、今日は楽しく配信出来たので落ちますねー! ばいばーい!』
『それではおやすみなさい、皆様、お体を冷やさないようにしてくださいね』
気づけば虜になっていたのか、『おやすみなさい!』と元気よくタイピングしていた。
おそるべし、ラーララとサーララ!
◇
「沙羅ーラー! 今日のお弁当は?」
「卵焼き多めにしておきましたよ。というか、朝見ているでしょう?」
「寝ぼけてるから見てないもーん」
学食中、楽々が沙羅を呼ぶ名が、少し伸びている気がする。いつものように蕎麦を啜っているが、気になって啜りづらい。
俺の隣で修が二人の光景を見ながら、なぜだか眉をひそめていた。
「なあ、りっちゃんってVtuberとか見るか?」
すると修が、楽々と沙羅に聞こえないように囁いてきた。修は超人オタクなので、何でも知っている。
「たまに見るよ。最近はちょっと離れてたけど、どうして?」
「今話題の双子Vtuberってのがいるんだけどよ、その、相崎姉妹とそっくりなんだ」
驚いて蕎麦が啜れなくなる。まさか、やっぱり!?
というか、修も知ってのか。
「もしかして、ラーララとサーララ?」
「そう! そうそう! なんだ、りっちゃんも知ってるのか!」
「こ、声が大きいよ修!」
当然のように声が大きいので、楽々と沙羅が気付く。
「どうしたの? 知ってるのかって何が?」
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
聞けばいい、ただ訊ねればいい。もしかしてVtuberしてる? と。
ただ、なぜか聞けなかった。もし秘密にしていたらどうしようと思ったのだ。
しかし、隣の修が、勇気を出したらしい。
「ラーララとサーララって……知ってるか?」
言った! 言った! と驚く。
二人がなんて答えるのかと思い顔を向ける。
しかし、見たこともない表情をしていた。
――慌てている。
「し、してないよー? あ、知らないよー? なにそれ?」
「き、聞いたことないですね。そんなVtuberがいるんですか?」
Vtuberとは聞いていないが、なぜか沙羅はVtuberだと明言してしまっている。
おかしい、絶対におかしい。
「そっかあ、じゃあ違うか!」
「え?」
しかし修は気付いていないらしく、そのまま満面の笑みでスッキリしている。
やっぱ違うよなあ! とスッキリしている。
あれ、俺はスッキリしてないんだけど!? むしろ余計に気になったんだけど!?
◇
放課後、楽々と沙羅は、不穏な表情を浮かべていた。
「どうしよう沙羅、バレちゃったかな?」
「う、うーん。わかりませんが、大丈夫ではないでしょうか?」
「でも、来月までは……」
「そうですね、予定通りにしましょうか」
理由は――まだ、わからない。
つづく。
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