三十二話 楽々と沙羅とプールランド
ハプニングだらけ? のウォータースライダーを終えて、次に向かったのは流れるプール。
全長数百メートル、上から滝のような水が落ちてきたりと、面白い仕掛けが沢山ある。
大きい浮き輪をレンタルして、沙羅が至高の笑みを浮かべ、ぷかぷかと浮いている。
「はうう、気持ちいいです♡」
「ずーるーいー! 沙羅、私もー!」
豊満な胸をたゆんたゆんさせながら、楽々が無理やり浮き輪の中に入る。
美少女双子姉妹が、周囲の自然を釘付けだ。
「律も入る?」
「流石にそれは出来ないよ……」
悪戯っぽく楽々が笑う。
そういえば二人とも泳ぐのは久しぶりだと言っているが、特に問題はなさそうだ。
普段から運動神経もいいので、そのあたりは予想通りだけど。
しかしやはりプールは気持ちがいい。
それも楽々と沙羅とまたこうやって遊ぶでるなんて、夢のようだ。
「あの夏のこと思い出すねえ」
「そうですね、ひと夏だけでしたが、思い出が山のようにあります」
二人もそう思ってくれているらしく、流れに身を任せながら思い出深そうに言った。
次の瞬間、上から滝水が落ちて来て、ビシャビシャになる。
「ひゃああ!?」
「わっ!? ――あ、さ、沙羅!?」
「え? はわわわ!?」
水の勢いで、沙羅の水着が少しずれる。白い胸がはだけるものの、寸前のところで楽々が抑えた。
慌てて直す沙羅を見てしまい、視線に気づいた彼女が、恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせる。
「り、律くん……見ちゃいました?」
「え、ええと、ちょっとだけ……でも、見てないよ!? 見てない!」
「律って、割とエッチだよねー」
「ち、違う! 事故だよね!? それにちょっとしか見えてなかったし!」
「やっぱり見てたんですね、律くんはエッチです」
「そ、そんな……」
「ふふふ、嘘ですよ。そういえばお腹が空いてきましたね、何か食べませんか?」
ぐう、タイミングよくお腹が鳴る。
◇
青空サマーランドの売店は豊富だ。
屋台のようなたこ焼、イカ焼き、焼きそば、更に炒飯、ラーメン、果てはパスタまである。
流石にプールから上がると冷えるので、二人は事前に用意していた薄いシャツを羽織っていた。
胸元が見えなくなることで視線が安定するので、嬉しいような、いや、寂しいような……。
「ストロベリー味かメロン味か悩みますね……」
沙羅が、トロピカルジュースを見ながら言った。
ここまできてもまずは甘いものということらしい。
いつも通り楽々はガッツリ系を選択、フードコート形式なので、それぞれ購入した物を持ち寄ってから集合することにした。
俺は大好きな蕎麦がなかったのでうどんを選択。
きつねうどんの天ぷらもり。
確保していたテーブルに座って待っていたが、沙羅と楽々が一向に戻ってこない。
先に食べるのも悪いので悩んでいると、二人から目を離さないようにしないという誓いを忘れて事に気づく。
無性に嫌な予感がして走り出すと、二人はヤンキーっぽい男たちから声を掛けられていた。
「ねえ、同じ顔してるけど、どっちが姉で妹なの?」
「良かったら一緒に遊ばない? 可愛いねー」
「すいません、興味がありません」
「沙羅、いこー」
しかし二人はそっぽむいて、その場を後にしようとするが、男たちは離れない。
居ても立っても居られなくなり、俺は飛び出していた。
「や、やめろよ! 嫌がってるだろ!」
全員が俺に視線を向ける。ヤンキーたちはにらみつけるように目つきを悪くさせた。
全員が俺より背が高い。けれども引くわけないは行かない。
俺が絶対、楽々と沙羅を守る――。
「あ、連れがいたのか。すまんすまん、てっきり二人だけだと思ってな」
しかし一番体格の良い男が、頭をペコリと下げる。
男たちは「あーあ、やっぱり可愛い子には連れがいるよなあ」と残念そうに消えていく。
ごめんね、ごめんねーと会釈。
「なんか思ってたより良い人たち見たいですね」
「そうだね、もしかしてプール好きに悪い人は……いない?」
「かもしれないね……」
最近嫌なことが続いたので身構えていたが、どうやら今日は違うらしい。
とはいえ、やはり気を付けよう。
それから三人でご飯を食べ、お腹を満たしたらまたプールで泳いだ。
鬼ごっこのようなことをしたり、再びウォータースライダーで笑い合ったり。
ひと夏の思い出が、まったく新しい思い出に更新されていく。
本当に、楽しい。
◇
「あー! 楽しかったー! でも、くたくた……」
「そうですね、律くん今日は本当にありがとうございました」
「あ、いや、俺も楽しかったよ。ただ、それだけだし、別にお礼なんて」
帰り道、心地良い余韻を味わいながら、沙羅がお礼を言ってくれた。
提案したのは俺だが、そんなことを頭からすっかり消えていた。
二人の笑顔を見ているだけで、ただ幸せ。
「それにしても律、格好よかったね!」
「そうですね、あれだけの大勢に立ち向かえるなんて、流石です」
そんなことないと言ったが、謙遜しないでと返された。
いや、本当にそうなのだ。一人では立ち向かえない。二人がいるからこそ、俺はいつもより強くなれる。
まあ、そんなこと恥ずかしくて言えないんだけれど。
それにしても二人の水着姿……凄かった。
その瞬間、スマホがブーブーとなる。
なんだろうと開けてみると、そこには沙羅の――水着姿がばっちりと映っていた。
驚いて振り返ると、楽々がニヤニヤと笑っている。おそらくいつの間にか撮影したのだろう。
もの凄く可愛くて……えっちだ。
「あら、律どうしたの?」
「え、え!? いや、楽々が!」
「楽々が、どうしたんですか?」
ひょいと俺の画面をのぞき込む沙羅、もちろんそこには彼女の水着姿が写っている。
さながら、俺がいつのまにか撮影したかのようにドアップになっていた。
それを見た沙羅が、とんでもなく顔を真っ赤にさせる。耳まで紅潮したかと思えば、叫ぶように言う。
「な、な、な、なんですかこれ!? 律くん!?」
「ち、ちがうこれは楽々が!?」
「あーあ、律ぅ、盗撮は良くないんだよお。確かに沙羅のお胸はたゆんたゆんだし、ぷるんぷるんだけど、そういうのはダメだからね。あ、もしかして……夜のお供に……しようとしてたのカナ?」
「え、ええええ!? 律くん、そ、そんなことを!?」
「ち、違う、違います!」
最後の最後、楽々のせいでとんでもない誤解を受けてしまうのであった。
その夜、帰宅して一人でお風呂に入っていると沙羅からメッセージが飛んでくる。
誤解は解けたはずだが、一体なんだろう。
「最後にすいませんでした。ただ、その……楽しすぎてつい忘れていましたが、三人で撮影したのは思い出として送っておきますね」
ブーブー。
「沙羅が送ったので、私のも!」
交互に開いてみると、そこには俺、沙羅、楽々の三人が、笑顔でご飯を食べているところだった。
楽々のには、ウォータースライダーを乗る前の俺たち。
「ふふっ、俺結構怯えてたんだな」
ひと夏の思い出が、ふた夏の思い出に更新された日となったのだった。
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