滅亡世界で断罪された私は、なぜか女神になったようです
仲仁へび(旧:離久)
第1話
世界バスカット・グラス。
この世界はもうじき滅亡する。
百年前から、魔物が大量発生したり、気候が急激に変わったりしていた。
不吉な予兆だと騒がれていたが、悲しいことに現実になってしまった。
つい先日、ちょっとしたことで女神になった私には、滅亡する未来が手にとるように分かった。
けれどそれなのに、とある場所では、人々が争いを続けていた。
視線の先には、戦争を起こしている国が二つ
彼らは世界の様子なんてまるで考えたこともないような顔で、向かい合っている敵の命を奪っていった。
そんな彼らの頭上には、用意したものがある。
滅亡する世界から脱出するために作った箱舟。
でも、彼らは乗れない。
乗ろうとすらかんがえないだろう。
世界が滅亡するなんてありえない。
だから、明日のことだけ考えて、数年後の繁栄だけを考えて、戦いあっていた。
人としての生を終えたあと、私は女神になった。
なぜかは分からない。
分かったのは、このままだと世界が滅びるということ。
幸いにも私は脱出船である箱舟を動かすことができた。
神話の時代からあったそれは、深い土の中で眠っていたようだ。
できれば使うことが永遠になければよかったのだが、世界が危機的状況にあるのだから仕方がない。
わたしは世界のあちこちに視線を向けて、乗せるべきものを選別していった。
私の視線の先では一人の男が何かを主張していた。
箱舟の前に人が集まっている。
大きな帽子をかぶっているので、帽子男と呼ぼう。
彼にも一応名前はあるが、知る前にどう呼べばいいのか分からないのは困る。
女神はそれほど万能ではないのだ。
知りたい事を瞬時に理解できるほど、優れてはいない。
だから帽子男。
帽子男は、突然地面の中からでてきた箱舟に驚いているようだ。
それで集まった人たちに、むやみに近寄らないように言っている。
しかし、それは善意から来るものではない。
帽子男は、その場にいる質素な身なりの者たちに、「貴族を船に乗せるべきだ」と言っている。
平民を見下し、貴族こそ価値のある人間だと思い込んでいるようだ。
私は彼を箱舟に載せない事に決めた。
あまり一つの場所を観察するのに時間をかけていられない。
世界各地では、地割れが起きたり、大波が発生したり、マグマが噴き出したりしていたのだから。
他の場所に視線を向ける。
そこは避難所だ。
様々な災害からのがれてきた人たちが身を寄せ合っている。
その中で、彼等を励ます少女がいた。
白い服を着ているので、白服少女と呼ぼう。
「苦難の時こそ、希望をなくしてはいけません」
特に中身のある話をしたわけではなかったが、人々は勇気づけられたようだ。
絶望の表情を浮かべていた人々は、これからの事を話し合っていた。
私は彼女を箱舟に載せる事を決めた。
さらに、他の場所に視線を向ける。
それは教会だ。
多くの信者たちが一人の神父を取り囲んでいる。
黒い上着と、白いズボンを履いた神父だ。
黒白神父と呼ぼう。
彼等は口々にこれからどうなるのかと、黒白神父に問いかけていた。
するとその神父は「大丈夫。神様を信じれば夜は必ずあけるもの」と伝えていった。
宝石のはまった杖を持っていて、しきりにそれをゆらしている。
黒白神父は「だから今は耐え忍びましょう」と人々に話しかける。
しかし、その裏で「ここはもうだめだ」と逃げ出す算段をつけていた。
私は彼を箱舟に載せない事に決めた。
次に目を向けた場所には、よく知っている顔がいた。
「なんで避難船が来ないのよ! 私は大聖女なのよ!」
港で怒鳴り散らしている少女。
その人物はかつての同僚だ。
私は今は女神になっているが、かつては人だった。
一人の聖女として活動し、けがをした人々のために治癒の力をふるったり、災害の影響が人々の生活圏に及ばないよう結界をはったりしていた。
いずれは大聖女になることが約束されていたが。
視線の先にいる彼女にはめられて、濡れ衣を着せられてしまった。
凶暴な魔物を町に招き入れたという罪をでっち上げられ、断罪された後は、命を落とした。
「これじゃ、逃げられないじゃないの!」
私は、よっぽどの事がない限り、この同僚の聖女を箱舟に乗せないだろう。
かつて、なんの変哲もない娘を助けた神父がいた。
その日を暮していくお金がなくて、貧困にくるしんでいた娘を。
娘は差し伸べられた手を感謝していたが、数日後に身に覚えのない借金がついていた。
お金など借りていない、と娘は言ったが、誰も助けてはくれなかった。
娘は、神父にも救いを求めたが、知らない人間だといわれ、関わりを断たれた。
借金取りから逃げ延び、やっとの思いで帰った家は荒らされていて、いざという時に使うように残されていた形見の宝石がなくなっていた。
その後、その娘が貴重な力である聖女の力を開花させなければ、生き延びることはできなかっただろう。
それからその娘は聖女の養成施設で、右も左も分からぬ頃に、同僚の女に助けられた。
その女は娘にとても親切にしていたが、娘がとある男から求婚された後、態度を急変させた。
それは、かつて生きていた、一人の人間の物語である。
必要な物と必要な人間を乗せた箱舟が、空に浮かび上がる。
取り残された者たちは、血走った目で箱舟を追いかけ、取りすがろうとした。
しかし、箱舟は止まらない、戻らない。
「貴族なのに! なぜ助けない!」
「なぜだ、私は人々のために活動していただろう!」
「私は大聖女よ、人の役に立てる力を持ってるわ。なんで乗せてくれないのよ!」
帽子男も黒白神父も同僚の聖女も、のこされた。
最後まで、自分の行いの愚かさに気がつかなかった者たち。
彼らは残されたチャンスをふいにしたことを知らない。
ここで罪を悔いていれば、まだチャンスは、あったというのに。
箱舟はやがて宇宙へ上がって、新たな星を探し始めた。
女神の役割はこれで終わりだ。
二度目の生、などという都合のいいものは存在してはならない。
神となった私はそのまま生き続けることができたが、そうはしなかった。
私は、滅びゆく星を最後まで見届けてから、永遠の眠りについた。
滅亡世界で断罪された私は、なぜか女神になったようです 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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