うちの妻が可愛い

仲仁へび(旧:離久)

第1話



「貴方、お帰りなさい」


 うちの妻が可愛い。


 仕事を終えて帰宅すると、いつも玄関で必ず出迎えてくれる。


 そんな健気なところが可愛い。


「お食事ができていますよ。それともお風呂が良いですか?」


 しかも、家事もできる。


 そのタイミングも完璧だ。


 そんな風に、思いやりがあふれているところも可愛い。


 素敵な妻をもてて俺は幸せである。


 けれど、妻はどうなのだろうか?







 うちの妻が超可愛い。


 もう、誰よりも可愛い。


 他の人間なんて目に入らないくらいだ。


 周りにいる人間?


 あれはもう、背景だようん。


 ただの背景。


 なんだったら、「無」でもいい。


 存在しなくてもいい。


 妻がいれば、それだけでこの世界は成り立っているようなもん。


 だってうちの妻はそれくらい可愛いんだから。


「あなた、でも道を歩いている時は他の所もちゃんと見てくださいね。でないと」

「どぅわ!」


 俺は突然道端にある石ころに躓いてひっくり返った。


 かっこ悪くて、死にたくなった。


 いてててて。


 うん、やっぱり「無」はやめとこう。


 危ない。


 それに損だ。


 死んだら、妻の可愛さを目に入れられないし。


 今日は妻とのデートの日。


 仕事のない休日だから、思う存分イチャイチャして羽を伸ばさないといけない日。


 そういうわけで今は、俺は世界一可愛い妻とともに、町のあちこちをめぐっていく最中だ。


 洋服屋に行ったり、小物屋に行ったり。


 フリフリだったり、キラキラだったり。女の子的な店が多かったけど、退屈はしなかった。


 だって可愛い俺の妻は、何を着せても似合うし、何で着飾っても可愛いからな!


 眺めてて退屈するなんてあるわけがない!


 こんな可愛い妻を持てて、俺は幸せ者だな。


 けれど、妻はどうだろうか。







 俺の妻は、昔……良いところのお嬢さんだった。


 しかし、浮気されて婚約破棄された事で、男性とのお付き合いにトラウマを持つようになってしまったらしい。


 そのあと妻はお見合いをいくつもしたけど、実を結ばず。


 目が節穴野郎共は、「まともに手も繋げないんじゃ付き合えない」と、のたまったらしい。


 それで実家の者達からは、「そんな有り様じゃ、跡継ぎを残せないわね」と言われて、ほとんど放置されている現状だ。


 そんな中の妻と出会ったのが、この俺だ。


 妻の可愛さに引き寄せられる男が多い事は否定しない。


 だが引き寄せられた後がお粗末すぎるだろ!!


 だが、お前らが惚れたのは外見だけか!?


 俺の妻は中身だって可愛いだろうが!!


 トラウマがなんだ!


 手を繋げなくたって、目を合わせられなくたって、長い目で見てつきあってあげればいいだけじゃないか!!







 とまあ、そんな努力のかいがあって、俺はこの可愛い妻をゲットできたわけだが。


 時々思う、俺の妻は今幸せなんだろうかと。







 デートの最後に思い出の場所に向かった。


 綺麗な夕日が見れる公園だ。


「いつみても素敵な景色ですね」


 妻は笑っている。


「ああ、そうだな」


 だから俺も笑顔になれる。


 しかし、妻の笑顔がかげった。


「何か心配な事があるんですか?」


 ぐっ、やはり妻には分かってしまうのか。


 優しい妻はいつも人の事を考えて、気にかけているすばらしい女性だからな。


「ちょっとな、お前は本当に幸せなのかと思って」

「何を言ってるんですか」

「でも、俺はそんなに裕福な家の人間じゃないから」


 俺は平民だ。


 貧乏ではないし、生活に困っているわけではないが。


 本来なら、お見合いがバンバン来るような名のある妻の家とは、釣り合わないはずだ。


 そんな俺と一緒になって良かったのかと思ってしまう。


 妻は、世界一可愛いから、きっと貴族の連中の中にも妻の中身も含めて受け入れてくれるやつがいただろうに。


 けれど……。


 妻は震える手で俺の手に触れて、揺れる視線を定めて、俺に目を合わせてくれた。


「私は幸せですよ。世界で一番優しくて格好いい、そんな旦那様の妻になることができたんですから」


 妻は、屈託のない笑顔でにこりと笑う。


「家族に期待されなくなって、誰も私をもらってくれなくなった。そんな時に手を差し伸べて、気にかけてくれたあなたが好きです。あなたと結婚出来て、幸せです。私を、見つけてくれてありがとうございます」


 今惚れた。

 とっくに惚れていたけど、惚れ直した。


 俺は、息を吐いて妻の体を抱きしめる。


 小さくてか弱い女性の体だ。


 でも見た目に似合わず、すごく頑張り屋さん。


 だから世界で一番幸せにしたくなる。


「おっ、俺っ、君にあえて本当に良かったよっ。ずびっ、俺の方こそ幸せをくれてありがとうなっ、ぐすっ」


 年に似合わず、みっともなく涙を流す俺。


 そんな俺のの背中を妻は、何も言わずに優しくさすってくれる。


 ハンカチもいいタイミングで出してくれるしね!


 情けないけど、嬉しい!


 なんて、できた妻だ。好き! 惚れた! もう惚れてるけど(二回目)!


 俺が妻に手を差し伸べているように見えて、俺も妻に救われてるんだろうな。


 周りから「良いとこなしの子」って言われて育った俺は、優秀な兄たちと比べられて自信をなくしていた。


 魅力なんてないんだろうなと思っていたから。


「帰ったら、あなたの好きなハンバーグを作りますね」

「ううっありがとう」


 俺の妻は可愛いだけじゃなくて、世界一立派な人格者だなと思った。


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