幼児編
第5話
「xxxxxxxxx!」
なんだこの声は……
男の怒声のような聞こえる。しかし不思議と恐怖感はない。
どちらかと言えば安心感さえ覚える。奇妙だ。
微睡の中にいるように何とも言い難い。気怠さが身体を支配している。
取りあえず寝た状態から身体を起こそうと手を動かすが、バタバタと大雑把に動くだけで上半身を起こすほどの膂力はないようだ。
肥えた訳でも大病を患った訳でもないのに、身体が持ち上がらなかった。
否、正確に言えば上がらないのだ。
「――――ッ!!」
息が出来ない。
呼吸の仕方をまるで知らないように、体が俺の言う事を聞かない。
呼吸ができず苦しんでいると、お尻の辺りに衝撃が走る。
――――バシン!
(痛いって!)
するともう一度ケツが叩かれる。
――――バシン!
痛みと衝撃に耐えられなくなって終に口から声が漏れる。
「えっえっ……ふぎゅあ、ほぎゃぁああぁぁぁぁぁ――――!!」
まるで赤子の鳴き声のよな声が俺の口から発せられていた。
(は? 何なんだこれ……何が起こってるんだ? なんで俺喋れないんだ? 意識は間違いなくあるだが体が動かない)
一所懸命喋ろうと試みるが、老人や赤子のように何を言っているか分からない言葉しか話せない。
肺は新鮮な空気を求め、酸素を吸収していく。
泣いたお陰か、呼吸の仕方をこの幼い体は理解したようで先ほどまでの息苦しさはない。
「xxxxxxxxxxxxxxxxxx」
優しい女の声が聞こえる。
だが何を喋っているのかはさっぱり分からない。
しかし彼女の優し気な声音からは敵意や害意を感じる事はない。
もっとこう……母性……慈愛? そう言った優しさを感じる。
だが女性の声は、到底大和の言葉を喋っているようには聞こえない。
(もしかして……俺は清明様の言う通り、未来の日の本の赤子に転生したのだろうか?)
俺の眼も耳もロクに見えないし聞こえない。
だがその分他の感覚は冴えわたっている。
そんな事を考えていると、この小さな体の体力が尽きたのか眠りに落ちた。
………
……
…
どうやら俺、安部春秋は『播磨守』(安部晴明)様の仰る通り通りどうやら赤子に転生したようだ。
先ずはこの国の話をしよう。どうやら今世では日の本は、日本と言うらしく東国よりも北……北海道から九州よりも南西にある沖縄と言う地域を領有し、五十年以上も平和な世が続いている。
着物は祭りや縁日でしか着ず洋服という舶来品……唐よりも西にある異国の服を好んで来ている様であった。
一番驚いたのは科学と言う技術だ。馬の無い車が走り、遠く離れた人と人が会話をすることが出来るなどと、都の貴族に話をしても到底信じては貰えないだろう。
まぁ優れた陰陽術の使い手であれば出来た事ではあるが……
それが術者でもない人間でも出来るとなれば、我々陰陽師はもう必要のない世なのかもしれない。
俺が産まれてから早約六年が経過した。
この六年間の間の出来事を軽く語ろう。
先ず俺の苗字は
どうやら安部家の子孫を名乗る家柄であり、父は現代の陰陽師らしいが、父の腕は世辞にもいいとは言いため稼ぎは低めらしい。
ならば父に優秀な兄弟がいるのか? と思うがどうやら陰陽師として最も基本的な才能である。
陰陽師として頭角を現すにも、それ以外の道で生きるにも先ずは勉学だ。と言う訳で俺は勉強を始めた。
唐国の言葉で記された書物を読めた俺には、現代の日本語などは存外簡単に習得できると思っていたのだが……新字と呼ばれる平易な漢字の出現や、平仮名、片仮名の変化に戸惑う所はあれども読むだけなら一年ほどで習得出来た。
転生した家……土御門家は分家らしく、貴重な書物がある訳ではないのだが、腐っても旧家蔵や書斎には多くの書が眠っている。普段は明るくないものの本を読む時は明かりを付けている。昔なら術で灯を確保していたが、すっかり近代文明になれた今の俺はライトで灯を確保する。時々前世の習慣が懐かしく感じるが、便利なのは今生のは間違いない。
本を読んだり、父から術を習い前世で習った術と照らし合わせ習得する。
当然この千年間で進歩した技術体系もあれば、千年前の方が優れた技術も存在する。
元々新しい技術は好きだったので、自分が習ったものが間違っていた。遅れていた。劣っていたと突きつけられ少し悲しいと感じる部分はあったが、千年間で変わらないものなどないのだと自分に言い聞かせる。
……そんな日の事だった。
「
土御門
東京……あぁ、辺境地である東国の武蔵国の今の名前だったか……
「わかったよ。パパ」
どうやら今回向かうのは毎年開かれる。七歳以上になる旧家の陰陽師達のお披露目会であるらしく、都のあった京都・奈良と東京で三交代制で行われるらしい。
父曰く意地の張り合いなのだとか……。
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