第20話 お地蔵様
お地蔵様ってさ、見たことある?
母さんに聞いたら、昔は山道なんかにはよく見かけたらしい。
けどさ、今時、山道自体そんなにないからさ。
俺はお地蔵様って見たことなかったんだよね。
まあ、そこまでして見たいってわけじゃなかったけど。
その日は、急遽、部活が休みになったから、よくつるんでた連中と遊びに行こうって話になったんだ。
男4人組で、むさくるしいんだけど。
けど、いざ、遊ぶってなっても金がないから、町には行けないなってなったんだよ。
じゃあ、どこ行くかって話になって、Tが山にでも行ってみないかって言い出したんだ。
最初はみんな、んなところ行っても楽しくねーだろって話になったんだけどさ、結局はやることもないし、時間がもったいないってことになって、ちょっと離れたところにある山に向かった。
大体、15分くらい登った頃だったかな。
Yが疲れたって言い出したから、その場で休憩しようってことになったんだよ。
そしたらさ、Fが山の奥に入って行ったと思ったら、俺たちを大声で呼ぶんだよ。
「ちょっと来いよ」ってさ。
なんだよって言いながら、俺たちも奥に入っていったらさ、あったんだよ。
お地蔵様が。
3体並んで。
Fが「俺、初めて見たよ」とか言いながら、お地蔵様の頭をポンポンと叩いていた。
俺も、見るのが初めてだったからさ、つい、触っちまったんだよ。
なんか、妙にスベスベしてて、石って感じがしなかったんだ。
そのときは妙なテンションでさ、お地蔵様と並んで写メを撮ったんだよね。
ちょっとお地蔵様を馬鹿にするような感じで。
写メを撮ったら、なんだか急に冷めてさ。
帰ろうってなったんだよ。
そしたら、不意に、Tが「この地蔵、なんか変じゃね?」って言い出したんだ。
なにがって言っても、Tは「よくわかんねーけど、なんか変な感じがする」って言ってさ。
で、Fがスマホで地蔵を検索して、画像を出してくれたんだよ。
そしたら、何が変なのかがわかった。
それはお地蔵様の涎掛けっていうの?
あれが、白かったんだよ。
ほら、普通は赤なんだろ、あれ。
でも、その3体のお地蔵様は全部白かった。
そして、今度はYがその涎掛けを見て「なんで、こんなに綺麗なんだ? 普通はこんな山奥にあるんだから、もっと汚れてていいはずなのに」なんて言い出した。
俺たちはなんだか急に怖くなって、その場から逃げ出すように走った。
でもさ、俺、見たんだよ。
お地蔵様の1体の涎掛けが、ジワジワと赤く染まっていくのが。
なんていうか、血が広がっていくみたいに、赤くなっていったが見えたんだ。
それは他の3人には言えなかった。
言っても仕方ないと思うし、もう、お地蔵様のことは忘れたかったから。
それから3日くらい経った。
急にFが学校を休みだした。
身体だけは丈夫なやつだったから、俺たちはきっとずる休みでもしてるんだろって話になった。
だから、学校の帰りにFの家に冷やかしに行ってやろうってことになった。
Fの家に行ったら、おばさんが出てきて、Fが昨日から、部屋から出てこないと悩んでるようだった。
俺たちは中に入れさせてもらって、Fの部屋のドアをノックしてみる。
だけどなんの返事もない。
「いいから開けろって」って何度も言いながら、ドアをノックしまくったけど、何の反応もない。
で、俺はちょっとムカついて、Fの部屋のドアに体当たりすると、鍵のところが壊れて、ドアが開いた。
俺たちは中を見て、絶句した。
部屋の中にいたのは、首を吊ったFだった。
その後のことはよく覚えてない。
警察とか救急車とか来てたけど、俺たちは何が起こったのかわからなくて、ずっと大人たちが騒いでいるのを見てるだけしかできなかった。
Fが自殺なんてするはずもない。
悩んでるような感じもなかった。
なんで?
そのとき、俺の頭に浮かんだのが、山奥で見たお地蔵様だった。
俺は恐る恐る、あの時撮った写メを見た。
俺は思わず、悲鳴を上げてしまった。
写メに写っているFの首から上が消えている。
そして、Fの首から血のようなものが流れているように見える。
俺はヤバいと思って、すぐにYのところに行って、写メを見せた。
そしたら、Yも青ざめて、「馬鹿にしたから呪われたんだ。謝りに行くぞ」と言い出した。
俺がTを呼ぼうとしたけど、まずは2人ですぐに謝りに行こうということになり、俺はYと2人で、山奥に行き、あのお地蔵様のところへ行った。
そして、あのお地蔵様のところへ行った時、俺は怖くて泣きそうになった。
いや、泣いてたかもしれない。
Yもガクガクと体を震わせていた。
3体のお地蔵様のうちの2体の前掛けが白から赤に変わっている。
もしかしてと思い、スマホでTに連絡したが繋がらない。
とにかく俺とYはその場で土下座をして、お地蔵様に謝った。
ふざけて変なことをしてしまってごめんなさい、と。
そしたら、3体目のお地蔵様の涎掛けが白から赤に変わっていく。
俺は直感的に、許して貰えなかったと感じた。
Yと一緒にその場から逃げ出して、家に帰った。
帰ったら、母さんが血相を変えて、「Tくんが事故で亡くなったって連絡があった」と言った。
俺はそのとき、「やっぱり」と思った。
あの涎掛けが赤くなったってことは、俺たちの中の誰かが死んだことを意味してるんじゃないかって感じていたからだ。
さっき、お地蔵様のところに行った時に、2体目のお地蔵様の涎掛けが赤くなったのを見てから、Tは死んだ、もしくは近いうちに死ぬと思った。
そして、3体目のお地蔵様の涎掛けも赤くなった。
つまりは俺かYのどちらかが死ぬ。
そう思うと、怖くて仕方がなかった。
Yは学校に行ってたみたいだけど、俺は仮病を使って休んだ。
Yが死ぬまで。
そして、俺の作戦は成功した。
Yは学校の屋上から落ちて死んだ。
事故なのか自殺なのかはわからないが、頭から落ちたせいか、頭が砕け散ったそうだ。
専門家も、いくら屋上から落ちたとしても、あそこまで頭が砕けるのはおかしいと言っていた。
とにかく、お地蔵様は3体。
T、F、Yの3人が犠牲になった。
これでお地蔵様の呪いは終わったはずだ。
次の日、俺はお地蔵様のところへお参りにいった。
お地蔵様の涎掛けは3体とも白に戻っていた。
俺は心底、ホッとした。
それからは毎日、お地蔵様のところにお参りに行っている。
そしたら、お地蔵様の1体の涎掛けが赤く染まっていた。
終わり。
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