第13話 ドッペルゲンガー
ドッペルゲンガー。
それは自分とそっくりな姿をした分身と言われている。
今ではわりと有名で、知らない人はいないんじゃないかと思う。
でも、それはあくまで作られた物語の中で登場するだけで、実際に現れるなんてことを体験した人はほとんどいないのではないだろうか。
もちろん、僕も例外ではなく、ドッペルゲンガーの存在は知っていたが遭遇するなんて思ってもみなかった。
初めて見たのは学校帰りに駅前のショッピングモールに行ったときだった。
兄が人ごみの中にいたのだ。
そのときはきっと見間違いだろうと思って無視をした。
なぜなら、兄は引きこもりで、もう3年以上家から出ていないからだ。
そんな兄が、町中にいるわけがない。
念のため、帰ってから兄に探りをいれてみたが、やはりずっと家でゲームをしていたのだという。
それから1週間も経たないうちに、今度は違う店で兄を見かけた。
誰か、友達のような人と一緒にいる。
今度はじっくりと観察したが、見間違いではない。
完全に兄の姿だ。
ただ、一つだけ兄と違うところは目の下にある傷が、兄は右側で店の中にいるやつは左側だ。
それだけ違うだけで、あとは見分けがつかないくらいだ。
世の中には似た人間が3人いると言う。
きっと、あいつはそういう人間なんだろうと、そのときは思い込むようにした。
帰って確認したが、やはり兄は家でゲームをしていた。
それからはやたらと、兄にそっくりな、その人を見るようになった。
そこで僕はある日、兄にそっくりな人に話しかけてみた。
すると、あっちは僕のことを知っていた。
というより、「僕の兄」として話し始めた。
僕と兄しか知らないことも知っていた。
これで、他人の空似ではないことがわかった。
もちろん、帰って、兄に探りを入れたが兄は家にいたし、僕と話したことは知らないようだった。
それからは、学校帰りや町中で兄にそっくりな、その人によく話しかけられるようになった。
他愛もない雑談ばかりだが、絶対に、僕と一緒に家に入ろうとはしなかった。
必ず、「俺、用事あるから」と言って行ってしまう。
僕は色々と調べて、その人は兄のドッペルゲンガーなのだろうと結論付けた。
それから数ヶ月が経った。
兄のドッペルゲンガーに会わなくなったなと思っていた矢先、突然、兄が学校に行くと言い出した。
親は大喜びをして、兄を見送っていたし、帰って来てからはどうだったかと色々と兄に聞いていた。
それから兄は引きこもることもなく、学校に通い続けている。
そして、今、兄の目の下の傷は左側にある。
終わり。
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