第11話 同じ顔

きっかけは、あの暑い夏の日のことだった。


 


私は飛び込みの営業で、色々な家を回っていた。


そんな中、カギがかかっていない家があって、ドアを勢いよく開けて挨拶をした。


 


そしたら、リビングで首を吊っている女の子の姿があった。


私と同じか少し下くらいの女の子だ。


 


私はその光景を見た瞬間、腰を抜かしてしまって、その場にしりもちをついてしまった。


すると、首を吊っていた女の子の目が開いて、私の方を見た。


 


首に食い込んだ縄を手で押さえながら、足をバタバタと動かす。


女の子はショックで動けない私を凝視しながら、暴れ続けた。


 


私は震える手で救急車と警察に電話した。


救急車が来る頃には、その女の子は亡くなってしまった。


 


私はショックで眠れない日々が続き、半年間休職をした。


その間は実家に帰り、お母さんに面倒を見てもらった。


 


半年が過ぎる頃には何とか落ち着いて、出社できるくらい精神的に落ち着いた。


ただ、営業はまだ無理で、事務職に移してもらった。


 


それから数ヶ月が経った頃、新人が入ってきた。


私はその新人の顔を見た瞬間、恐怖で固まってしまった。


 


なぜなら、その入ってきた新人の子の顔が、あの日、首吊りしていた女の子とそっくりだったからだ。


 


あの子は亡くなったと聞いている。


私はその新人の子には悪いと思ったが、探偵にお願いして、首吊りした子との関係を調べてもらった。


だけど、親戚でもなんでもなく、結局は他人の空似ということで落ち着いた。


 


私は内心、怖かったけれど、新人に対して距離を置くことはしなかった。


わからないことがあれば気軽に聞いてと言って、何かとフォローしてきたつもりだ。


 


だけど、その新人が仕事で大きなミスをした。


会社にも大きな損害が出るほどの失敗だ。


 


もしかしたら、新人の子はクビになるかもしれない。


そう思っていたら、新人の子が「〇〇さん(私)が助けてくれなかった。見殺しにした」と会社中に言いふらし始めた。


 


もちろん、私はそんなことをしていない。


何かあったら言ってと言っていたし、大丈夫?と声もかけていた。


だけど、周りから私が悪いという目で見られるようになった。


 


私は会社にいられなくなり、会社を辞めることにした。


 


また実家のお世話になることになったが、お母さんは嫌な顔ひとつせず、ずっと居ていいと言ってくれた。


 


それから1年が過ぎたころ、ようやく働けそうなくらい精神的にも安定して、私は就職活動をして、ほどなく就職することができた。


 


何もかも忘れて、心機一転頑張ろうと思い、必死に仕事に専念した。


 


そんなとき、新人が入ってきた。


信じられないことに、その新人は首を吊った女の子や前の職場の新人とそっくりなのだ。


 


もちろん名前も違うし、雰囲気も違っていて他人だということはわかる。


でも、顔がそっくりなのだ。


 


その新人は私を見て、ニコリと笑いながらこう言った。


 


「前にどこかで会ったことありましたっけ?」


「なんか、始めて会った気がしないんですよね」


「もし、何かあったら、今度こそ助けてくださいね」


 


終わり。

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