第5話 公園にいるおじいさん
これはどちらかというと、怖いというより不気味って話になると思う。
いや、不気味って言ってしまうと失礼かもしれない。
この話は心霊とか化物、妖怪みたいなことでもないし、都市伝説みたいなものでもない。
ただ、この話を怖いと思ったのは僕だけではないというのは、言い訳も含めて書いておく。
初めてその人の噂を聞いたのは中学生の頃だった。
公園のベンチにずっと座っているおじいさんがいる。
これだけだ。
本当にこれだけ。
別に犯罪でもないし、誰かに迷惑をかけているわけでもない。
普通のことだ。
だから当時の僕も、なんでそんなことが噂になるのかわからなかった。
ただ、当時は今と違って娯楽が少なかった。
だから怪談とか都市伝説とかは、恰好の娯楽の一つだった。
噂を聞き付け、クラスの人間も何人かは見に行ったりもしていたようだ。
で、実際、次の日に「いたいた。ちゃんといたよ。そのおじいさん」と友達と話して盛り上がっていた。
だけど如何せん、まあ地味だ。
だって、ただ単に公園のベンチに座っているだけだからだ。
そして、目撃も簡単に出来る。
逆に見つけられることが稀だった方がもう少し興味を長持ちしていたかもしれない。
結局は噂を聞いて、その公園に行くと本当におじいさんがベンチに座っているのを見る。
これだけだ。
楽しいわけがない。
だから周りはすぐに飽きた。
僕も見に行くようなことはなかった。
僕が実際に、そのおじいさんに関わることになったのは高校生になった時だった。
学校の通学路でその公園の横を通ることになった。
僕は部活に入っていたから、帰るのはいつも18時を過ぎていた。
だけど、その日はテスト期間ということで、部活が休みでいつもより早く、公園の横を通ったのだ。
違和感だったのは、公園に子供が誰もいなかったこと。
15時くらいなのに、一人も子供がいなかった。
公園なのに。
僕が小学生の頃、この公園で何度か遊ぶことがあったが、その頃は多くの子供で賑わっていた。
遊具を取り合うくらいには多かった。
だけど、誰もいない。
その中でベンチにポツンと一人のおじいさんが座っていた。
笑みを浮かべて、座っている。
そのおじいさん以外は、公園には誰もいないのにニッコリと笑みを浮かべて座っていた。
何となくゾッとした。
足早にその公園の横を通り過ぎた。
その日、母親にそのことを話してみた。
すると近所では有名なおじいさんだそうだ。
朝早くから公園にやってきて、夜までずーっと微笑みながら座っているらしい。
やっぱりそれが不気味に思う人もいたらしく、警察に相談したこともあったって話だ。
だけど、そのおじいさんは法を犯しているわけでも、迷惑をかけているわけでもない。
警察でもどうすることもできないと言われたそうだ。
そうなるとこっちが避けるしかない。
何かあってからでは遅い。
だから、親たちはあの公園で遊ぶなと子供たちに言い聞かせ始めた。
人が少なくなれば、今まで気にしていなかった人も不気味に思い始めて、子供にあの公園で遊ぶなと言い始める。
そうすることで、誰も公園で遊ぶ人はいなくなったという経緯があったらしい。
それでもおじいさんは公園に来るのを止めなかった。
いつも通りに朝早くからやってきて、夜までずーっと座り続ける。
別に子供たちが遊ぶ姿を見に来ていたというわけでもなかったというわけだ。
中にはおじいさんに、何してるんですか? と聞いた人もいたらしい。
だけど、ニコリと笑うだけで何も答えないのだそうだ。
その時はちょっと不気味だなと思って終わりだった。
僕が帰る時間にはおじいさんはいなくなっていたし、関係がなかったからだ。
そして、僕はすぐにそのおじいさんのことを忘れてしまった。
それから20年後。
僕は結婚して子供が出来て、実家に帰省したときだった。
子供を遊ばせようと思って、その公園に向かった。
その公園には全く子供がいなかった。
休日の14時だったのにだ。
そして、ベンチにはあのおじいさんがニコリと笑って座っていた。
僕は子供を連れてすぐに実家に戻った。
これでこの話は終わり。
この話には幽霊も、化物も、妖怪も、殺人鬼も何も出てこない。
普通の、長生きなおじいさんが出て来るだけだ。
だけど僕にはどうしようもなく不気味に感じたのだ。
終わり。
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