勇者の戦闘
冷汗が頬を伝っていく……。
初の相手がこんな狂暴そうなのだとは思っていなかった、屈強な兵士でも1人で倒せる相手ではないだろう。
「……どうしような、これ」
大型の
脳みそフル回転の中、どうでもいいことにこの危機的状況に反して自分の口角が僅かに上がっていることに気づく。
これは別に愉しんでいるとか武者震いとかではない。ただもう馬鹿になるしかないと、そう脳が判断したのだ。
「君は、シレクス村の人かな?」
「そうですけど……。」
「じゃあ、今すぐ来た道を走って逃げるんだ!」
「え!?」
少女は驚きの表情を見せる。
それもそうだ、こんな強そうに見えない男一人に倒せないのは誰が見ても明らかだからな。
勝てる算段なんてない。そういう次元の相手じゃない。
少女同様俺の脚だってさっきから震えている、怖い。
「時間は稼ぐ」
「でも、」
「いいから早く逃げろ! 走れっ!!」
急かすように大きな声を出す。
「は、はい!」
大声で
どうか足が速くあってくれ、どれだけも稼げないかもしれない。そう思いながら足音が聞こえなくなるまで精いっぱい熊魔獣から目を離さないようにして待つ。
少女の足音が、やっと消える。
実際はどのくらいかかったのかわからないが生きてきた中で一番、異常なほど長く感じた。
「逃がすまで待っててくれるなんて、意外と優しいんだな」
魔獣を煽る様に言うが、少しでも震えや恐怖心を和らげるためだ。
しかし、【勇者】っていうのは呪いか何かなのだろうか?
ここまで自分が身を粉にできるとは思ってもみなかった。ただ農民だった頃の俺だったら、少女を逃がそうとはするかもしれないが、立ち向かおうとなんてしなかっただろう。
勝てるとは思ってないが、まだ生きたいと思っている。
死ぬことが確定したような旅だが、こんな序盤で死んだら死にきれない。
「目指すは討伐じゃなくて行動不能、もしくは雑木林の脱出。やるぞ」
そうだ、生きてここを抜けれれば俺の勝ちだ。
魔獣も咆哮を上げ遂に戦闘態勢に入った。
二本足で立ち、大きく鋭い爪を宿した両腕を空へと広げて俺を威嚇する。
全長三メートルくらいだろうか? やはりデカい。
「グオオオ!!!」
(まず、最初の攻撃を何としてでも避ける。話はそれか……)
「らぁっ!?」
まさに間一髪。横に身を投げるようにして突進を躱すことができた。身の危険を肌で感じる。
「速すぎるだろ……」
しっかりと行動を目で追っていたが、熊魔獣は予想以上に速かった。
これは、俺が攻撃する隙が無いかもしれない。
「くそ、また来る!」
今度は俺が立ち上がった瞬間を狙っての突進。再び飛び転がるようにして避けられたのはいいが、これを何回も繰り返されると
今度はできるだけすぐに立ち上がる。熊魔獣はまた突進の構えに入った。
「狙うなら避けた瞬間しかないか」
ギリギリで横に避けて、脚を攻撃できれば行動力は少しでも落ちるだろう。
熊魔獣の脚が地面を蹴ると同時に横へ飛ぶ。それくらい早くないと間に合わないと思う。
「うおっ! 危ないっ」
避けたことにより、目の前ギリギリを熊魔獣が横切る。
「おりゃあぁ!」
あまりの迫力に少し
ガッ。
「!?」
熊魔獣の脚に剣が通りきらず、中途半端に刺さったまま持っていかれてしまった。俺は慌てて距離をとる。
相手は俺が攻撃した場所でちょうど止まるが、俺の攻撃に関しては全く意に介してないみたいだ。
「畜生、どんだけ固いんだよ……」
先ほど、衝撃に耐えきれずに放してしまった両手を見る。皮膚が赤くなっており、痛みがジンジンと、だんだん強くなっていく。
くそっ、剣だけじゃない、握力も持っていかれた!!
「いってぇ……こんな手じゃ、もうまともに握れないな」
熊魔獣は距離をとった俺の方向を向く。
もはや行動不能にする案もなければ実行できる力もない。
まさに絶対絶命ってやつだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます