俺だけ見えるパーティーレベル~アナザーストーリー:王族からの逃亡~

信仙夜祭

第1話 逃亡した勇者

「探せ~! 異界の勇者は、この辺にいるはずだ~! 多少の手荒なことは、許されているぞ~! 恩賞は思いのままだぞ~!」


「「「おおお!!」」」


 ぐっ……。俺は馬を走らせる。

 俺は馬をパーティーに加入させて、状態を確認する。


『酷使し過ぎたな。人目を避けるために山道を選んだんだけど、坂道で馬の体力が大幅に削られてしまった。VITの減少を半分受け持ったけど、限界が近い』


 それに比べて、衛兵たちは、ローラー作戦だ。

 スピードは、俺の方が速いけど、馬が止まった時点で追い付かれてしまう。

 俺は、ステータス全般が低い。体力がないんだ。


 馬の脚が止まり出した。限界だな。

 疲労を引き受けても、山道だと走れる距離は、たかが知れている。

 それより俺が歩いた方が、距離は稼げるだろう。

 馬から降りて、山の稜線に沿って、馬を進ませる。


「助かったよ、ありがとうな」


 ここで、馬とのパーティーを解散させる。

 ここからは、歩きだ。

 俺は、馬とは逆方向に歩き出した。


「山の麓から大量の松明が見えるな……。フェイクなんだろうけど、あの数のローラー作戦だと見つかる恐れがあるか……」


 俺は、とにかく体力の消費を抑えるために、山を登らずに水平方向に移動することにした。

 松明の光との距離が詰まる……。


「どうすれば、王族から逃げられるか……」


 このままでは、体力のない俺は、追い付かれて捕まる。


「身を隠して、やり過ごすか?」


 木に登る。

 洞窟に籠る。

 沼地に潜る……。

 全てのステータスが低く、スキルの使えない状態の俺では可能性が低いな。

 周囲を見渡すけど、この山には魔物も少ない。

 まあ、魔物をパーティーに加入させても、運ゲーになる。『使役』みたいなことはできないんだ。

 HPとVITの減少を押し付けるくらいだな。


「そういえば、昔……、HPが1になるまでパーティーのダメージを引き受けて、その後に迷宮ダンジョンのボスにダメージを押し付けたことがあったな。その後に、異界の勇者たちから死んだと思わせて、女神国を抜け出したんだっけ」


 自分勝手かもしれないけど、あの待遇は受け入れられなかった。

 いや今は、昔を思い出すよりも、今の危機を乗り切ろう。


「……足跡を見つけられたみたいだな」


 松明の火は、馬と俺の痕跡を辿る様に二手に分かれた。

 俺は、ここで木に登った。

 移動速度は落ちるが、足跡は消せる。

 最悪、樹頭に登りやり過ごす算段だ。





 松明は……、動きを止めた。

 ゆっくりとだが、木の枝を跳躍して移動して行く。音を立てない様に……。

 ここで、鳥が視界に映った。


「しめた!」


 俺は、鳥……カラスもどきを、パーティーに加入させた。『使役』とはまた違うけど、スキルが使えるのが大きい。そして、魔物みたいに襲って来なかった。動物はいいかもしれない。

 鳥の視界が、脳に直接送り込まれて来る。

 俺は、鳥に近づき飛び立たせた。

 上空からの視点……、イーグルアイ。〈索敵〉におけるこれ以上のスキルもないだろう。


「衛兵たちは、更に分散して来たな。俺の術中に嵌ってくれている。これならば、衛兵に遭遇しても少数のはずだ。いけるか?」


「そうかな?」


 俺の独り言に、誰かが反応した?

 背後を振り返る。

 鈍器が迫っていた。

 篭手で受けるが、地面にたたきつけられた。


「ぐっ……、いてぇ」


「……ウォーカーと言ったな。大人しく、リナリー様の元に返って貰おうか。多少の骨折程度なら、許可されていると伝えておこうか。王族も本気だぞ。逃げ出した異界の勇者など、価値が計り知れないんだからな」


 この人、暗殺者とかだな。多分強い。

 だけど……、俺の前に姿を現したのは、愚策だ!


集団性能パーティーレベル発動!」


 俺は、〈パーティーへの強制加入スキル〉を発動させた。HPを強制徴収すれば、どんな相手でも無力化できる!

 だけど、次の瞬間に脳が揺れた……。殴られ……た?


『スピードが、違い過ぎるよ……』


 その後の記憶はない。

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