6話 現在の状況
何処を見ても木⋯⋯。魔物やらその他の生物反応なし。爽やかな香りと心地よい自然の風が吹いている。
あれから二人は1時間程探索を始めた。
最初は嬉しそうに歩いていた創一だったが、本当にずっと変わり映えのない景色、そして魔物や小動物の生命の遭遇も無し。
そんな平和すぎる探索にだんだんとつまらなそうに歩くようになり、丁度良いタイミングでセレーヌの足が疲労を溜めた頃合い──気分転換をするために、一旦休憩しながら今後のルートを決めようとなった二人だった。
だが────
**
「はぁぁぁ⋯⋯」
創一が大きく吐息をつく。そのすぐ近くで木の実を拾って袋に詰めているセレーヌが伺うように創一に駆け寄る。
「どうかしましたか?ご主人様?」
「いやな?まずその口調やめような?」
ワシャワシャ雑に自分の頭を掻きながらセレーヌにそう言うが、ポカンとしながら首を傾げてキョトンとしている。
「え⋯⋯?ご主人様はご主人様ですよ!」
表情から察するに、多分「分からないけど、とりあえず!」みたいなノリで創一に返事をするセレーヌ。
「はぁ⋯⋯⋯⋯」
そんなセレーヌの心情を察した創一が、右手で顔を覆いながら更に深い溜息をつくのだった。
'本来買うつもりはなかった'
マジでたまたまだ。本来はそのまま街へ帰らせた方が早いと思ったんだが、この世界では法律なんてない可能性もあるがルールはあるはずだ。
⋯⋯今の俺は知識ゼロのただの異世界人。
下手にやればこっちが犯罪者だからな。一応この世界のルールで円滑に進めるならこれしかないと思って購入に至ったが、それよりも──さっきからセレーヌさんが全然口調辞めてくれないの!どう思う!?
いやまぁ分かるよ?そうしないといけない身分ってことなんだけどさ⋯⋯俺がいいって言ってるのに、「助けてもらっただけでなく、購入して頂いたのにそんな恩人にそんな口調で話せません!」と言われ、ずっと辛い目にあっているところだ。
「なぁセレーヌさん」
力で速攻無理矢理に作った木の板の上で寝っ転がりながら、横目でセレーヌを見つめる創一。
「ご主人様、私にはそのような言葉遣いは不要ですっ!」
「いやセレーヌさん?ご主人様が口調普通でいいよって言ってるん────」
話を遮って「いいえ!その様な事をすればご主人様が恥となります!いけません!」と反射でそうすぐに返事を返すセレーヌ。
それを聞いた創一は「そ、そう⋯⋯」と遠慮気味にすぐに空を見ながらゆっくりしていた。
'いやオカンかよ!'
なんで俺がいけないみたいな雰囲気が出てんだよ。
まぁ生憎、俺の両親は4歳だったか?に他界していて、家族とかの記憶はもうほとんど残ってはない。
⋯⋯とまぁなにより今はこんな状況だ。
**
そこからしばらく創一は頭の後ろで両手を組みながら空を見ていたが、思い出すように自分のスキルの事を思い出す。
'ん?'
やべぇ、確か⋯⋯俺にはスキルがあったんだよな?色々確認しておいた方がいいか?必須だよな異世界では。
確か、職業とスキル、それから色々あるんだったよな。
とりあえず鑑定とかが一番早そうだな。定番のスキルだし、ある意味──異世界人にとっては一番最強なスキルでもある。
普通は「適正〜!やったぜ!!」とか、最初から強すぎる無敵〜!チートスキルじゃん」が強そう⋯⋯ってか強いとは思うが、結局それを使ったりする前に情報がなければ全て意味が無いだろう。
⋯⋯俺は小説やゲーム、アニメの主人公じゃない。イベントが起きないことなんて当たり前だ。
'穏やかに⋯⋯いや、それは無理か'
自分でも無茶な事を言ったのを自覚して思わず苦笑いする創一。
世界はそんな簡単ではない。
ここで死ぬまで⋯⋯か。まぁ長い事付き合う事になる場所なんだ⋯⋯いつかはそんなチートみたいなスキルを手に入れるかもしれないが、今はそんな事よりも──情報だ。
'俺の知っているスキルだとしたら相手の個人情報を覗ける素晴らしいスキルなはずだが⋯⋯'
まぁ何はともあれ⋯⋯だ。
セレーヌの方へ寝返りを打ち小さく手を伸ばす。
そして少し口元が緩み、少し恥ずかしそうに創一は小さく呟いた。
「か、鑑定」
'発動するか?'
そう言葉を発した数秒後。全く何も起きず、段々恥ずかしい気持ちが込み上げてくる中──目の前に突如ウインドウが現れた。
───────────────────────
【名前】セレーヌ
【種族】 人族(ヒューマン)≠+−〈[−"≠−−⊆+−
【職業】
見習い僧侶Lv8
HP230 MP70
攻撃力 34 防御力 43
素早さ 3 魔法攻撃力 10
魔法防御力68 運 1150
魅力 1400
【職業スキル】
ライトヒール
【適正】
支援魔法A
聖属性E
【各耐性】
精神耐性Lv4
飢餓耐性lv3
────────────────────────
'良かった──発動したか'
指で上下になぞりながら、淡々とセレーヌのステータスをしっかりと確認していく創一。
'適正は回復系⋯⋯か⋯⋯皮肉だな'
ボロボロな布一枚で、必死に何か仕事をやろうと実を割ったり、見える範囲で他の所から取ったりしているセレーヌを横目で見ながらそう言い放つ創一。
'この世界のポーションの力を見るに⋯⋯明らかだ'
異世界転生でよく見かける展開だが、恐らくレベルの高いポーションや魔法があれば欠損や怪我であればそれで治せるんだろう。
わざわざ開腹なんかしなくても液体をちょろっとかけるか、魔法やスキルを行使する方が遥かに早くて確実だ。
そりゃあ、こんなのがあれば魔法が発達する訳だ。
'しかし⋯⋯だ'
奴隷でしかも僧侶とか──どんなに暴力を振るわれたとしても自分で治せるし、それを見てまた暴力を振るうのループだ。
結局回復をやめて、ただそれだけするしかないのか。
'全く⋯⋯奴隷ってのは、いつの時代、何処の世界でもこんな待遇かよ'
「クソッタレな世界だな⋯⋯おい」
考えている事に反して森に吹いている自然の風は創一の髪を程よく揺らし、空は有り得ないくらい晴れていた。
そんな景色をまるで
『マスター』
'ん?なんだい?ナビさん?'
『おそらく彼女は魔法が使えると思っていません』
'ん?何故だ?'
『マスターは持っていますが、鑑定というのは教会の中でお金を払い診てもらうものです。
入手方法としてもうひとつは、職業スキル<鑑定士>のレベル上限の200でスキル解放されますが、人類でスキルを発言させるのは不可能に近いものだと思われます』
'なるほど、理解した'
つまり奴隷・平民は、まず鑑定でどれが良いとかが分からないという事か。職業が僧侶だとしても、家庭内環境によって剣を握らせて大人になる奴もいるということだな。
『はい、一応ですが祝福の儀というものがあり、5歳の時に神から啓示によって自分の優れたモノが分かります。
僅かな希望として平民の中からもレア職業が出る可能性もあります。
僅かな可能性でレア職業が出た場合、国にスカウトされたり、断って冒険者になったとしてもいい立場に行くことが可能になります』
'それっきりほとんど見られないのか。そりゃあわかんない訳だ'
溜息をつきながらセレーヌのステータスをジッと見つめる。
'アルには感謝してもしきれない我儘を言ったな'
ところでこの森に着いてからいきなり遭遇したもんだから忘れていたが、自分の鑑定してみようか!
読んでた小説なんかは出来るはずだがな、やってみよう!
'鑑定'
キラキラな瞳で、どんな情報が出てくるのか期待しながら待っている創一。
────────────────────────
【名前】神門 創一(
【年齢】17歳
【種族】人?
【職業】修羅道 Lv0(ユニーク)
HP4500 MP 1800
攻撃力2500 防御力2200 素早さ 6500
魔法攻撃力 3200 魔法防御力4000 魔法耐性15000
魅力8000運 500
【
・暗算LvMAX・速読LvMAX・高速思考 LvMAX
・マルチタスクLvMAX・精神耐性LvMAX
・苦痛耐性LvMAX・精神汚染抑制LvMAX
・野生の勘LvMAX・並列思考LvMAX
・王のオーラ,王の威圧LvMAX・感情抑制LvMAX
・神門式格闘術LvMAX (複数有)
・気功術LvMAX・柔術LvMAX・空手LvMAX
・ムエタイLvMAX・八極拳LvMAX・太極拳LvMAX
・詠春拳LvMAX・少林寺拳法LvMAX
・ジークンドーLvMAX・システマLvMAX
・ブラジリアン柔術LvMAX・軍隊格闘術LvMAX
・レスリングLvMAX・暗殺術LvMAX
・ボクシングLvMAX・キックボクシングLvMAX
・詐術LvMAX・話術LvMAX・身体操作LvMAX
・瞑想LvMAX・歌唱力LvMAX・努力LvMAX
⋯⋯他1540以上の
※一部のみ公開しています
※耐性、スキルを合わせてこの数です
【称号】
・鬼の道を往く者・慈悲深い者
・アルテミスの加護・逆境に負けない者
・運命を変えし者・転移者・孤高の魂を秘めし者
・巻き込まれた者⋯⋯⋯⋯他10000以上の称号有。
※
【スキル】
・鑑定Lv1・偽装Lv2・職業転職制限無しLv0
・全スキル取得制限解放&条件検索
・アイテムボックス(スマートフォン) Lv1
・言語理解LvMAX・獲得経験値上昇LvMAX
────────────────────────
'うん⋯⋯待って!?
有り得ない状態となっている自身のウインドウを1ミリも動かせないくらいがっちがっちに固まっている創一の表情筋。
20秒程固まった後、アルテミスとの会話を思い出してなんとか情報量を飲み込む。
'ああ!!アルが言ってた事はこれの事か'
俺は
'道理であの表情になるわけだ⋯⋯'
創一が苦笑いでスクロールしながら自分のスキル欄を見ている。
'思わず笑ってしまうな'
これでなんとなく分かったが、ゴブリンとの戦いの鑑定にしろ、セレーヌの鑑定の時もそうだが⋯⋯明らかにスキル量の違いが凄い。
そのまま自分のステータスを確認していると、すぐにあることに気が付く。
'しかも⋯⋯が付いてるってことはまだあんのか'
創一の目線にはその他数千という明らかにチートレベルの数字が羅列されているのを見つけ、なんか申し訳ない気持ちと、歓喜の気持ちが混ざり合っていた。
'まぁ、俺は特殊だしな'
こんなになるほど⋯⋯あっちで身につけたものが多いってことか。まぁあっちの時はそんな余裕は無かったからな⋯⋯ある意味チートってよりは命懸けだったから、まぁ人より良い物があるっていう認識でいいか。
⋯⋯どことなく罪悪感が凄まじいからな。
そこからなんとなくアルテミスの言う通り──あまり地球で過ごした感覚とはあまり変化が無いことに気付いた創一は、次の展開を早くも考えていた。
'まぁしかし'
スキルは一旦置いておいたとしても、大陸や街、そして貴族なんかの情報を早く手にしなければならない。あのクソッタレ共となるべく距離を置きたいし、事前予習って奴は済んでいるからな。
創一はかつてな○う系小説やカ○ヨ○などのWeb小説を読んでいた時代があり、一時期──仕事を放り投げてまで読んでいた暗黒期があった。
毎日のように読んでいた創一は、なんとなく転移したその次を考えて行動を始めようとしていた。
「よし」
'とりあえずはこの大陸の知識や価値観を学ぶ必要があるな'
セレーヌさんだって、俺の反応見て「はぁ?」みたいな顔をしていたし、色々と学ぶ必要があるしな。
'っとその前に名前だ!名前!'
流石にフルネームで名を名乗る訳にはいかないだろう。周りのみんなは英国みたいな名前してるし、俺だけ神門さん〜なんて言われたら目立つに決まってるだろうしな。
そしてステータスにある自分の名前の横にある記述があるのを創一は見逃さなかった。
'そういや鑑定の横にこの世界の名前をつけてとあるが、変えれるって事か'
「ん〜⋯⋯」
そのまま頭を抱えた創一は5分という時間を空けた。
**
'ぶっちゃけもうなんでもいいんだけど'
しかも元々厨二病だし⋯⋯アーサーとかそういう名前で行こうかな。
'特にそういう恥ずかしさは無い'
何故ならそもそも名前で厨二病なんて思い付くのは日本に住んでる奴だけだと思うがな。
例えば海外だとアーサーなんて居そうだろ?クリスとか〜後レイとか。
起き上がって胡座の体勢をとり右膝の上に肘を置き、その上に顎を乗せ一生懸命考えている創一。
'まぁいい。厨二病らしく'
ニヤリと笑う創一。
'元々使ってたゲームのキャラ名だし!ガゼルで行こう'
変に長いの考えると、貴族だなんだ思われる危険があるからな。よし!ガゼルで行こう!
'設定!'
頭の中でそう念じると、ナビからの言葉がやってくる。
『マスターその名前でよろしいですか?』
'ああ!それで頼む!'
『承認しました。これより神門創一は記録は残りますが鑑定ではガゼルと表示されます。決して名前が消えた訳ではありませんので御安心を』
'おおー!ナビさん、親切にありがとう!
所で、ナビさんの名前
『⋯⋯⋯⋯』
'ん?ナビさん?'
『私の名前はなぎさです』
'あ、ああ'
『マスターの世界の名前の漢字はありますか?』
'え?言語理解してるのか!流石⋯⋯早いな'
『はい。なぎさは最初から理解しております』
'な、なんか可愛くなってないか?まぁ──'
創一がそう言いかけたのを遮ってすぐになぎさが答える。
『可愛くなっていません』
'そ、そう?まぁいいか。渚⋯⋯これでいいか?'
『私は固有名『渚』としてマスターのサポートに着きます。今後ともよろしくお願いします』
'おう、よろしく渚!さぁ⋯⋯知識を得なきゃな!'
そう言いながら創一は木の板から立ち上がるのだった。
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