紅葉咄
志満 章
おとなになりたい
ねぇ、ここだけのお話だよ。
むかぁしむかし、この校舎があるところは墓地だったんだって。よくある話? えーもうそういうの聞き飽きた?
いやいやここからが話の面白いところでさ、当時の風習で、7歳までに亡くなった子が埋葬される場所だったんだってさ。ななつまでは神の内、っていうでしょう? だから“人”と別の場所に埋葬されるしきたりだったんだってさ。
それから時は流れて戦後、医療の発達で子どもの死亡率がずいぶん下がった。昔ながらの風習のことを覚えている人たちも、それを守ろうとする人たちも少なくなって、この集落には沢山の子どもで溢れるようになった。それで、街まで通うには遠いし、ここに学校を建てようっていうことになったの。
なんで他に土地があるのに、墓地に建てたのって?
それがさ、当時の偉い人が、
「ここには学校に行ける年まで生きられなかった子どもたちが一人ぼっちで眠っている。ならば供養をして、遺骨は家族とともに納めてやるのが1番だ。彼らにしてやれなかった分まで未来ある今の子どもに投資をしようじゃないか。それに、ここならばもし死者の魂が帰ってきても、学校というものを味わえるだろう」
とかなんとか言ったんだそうな。
ある人はこれを素晴らしいと褒め称え、ある人は故人の眠りを妨げる冒涜だと罵った。大体の人は朽ちかけた墓地なんて邪魔なだけだから、しかるべきところに頼んで処分してしまえ、という考えだったみたい。
唯一反対していたのは、占いおばばの家だったの。あのいっつも変なことしか言わない、昔はすごかったのにっていうおばばだよ。
若い時は超絶美少女だったの⁉ え、あ、それ本気で言ってる? えーまじか。いやでもおばばの姪っ子さん美人さんだもんな……。おばばの家の血だったかぁ。
あ、ゴメン。話に戻るね。
おばばの家はさ、
「墓地に学校を建てれば必ず祟りが起こる。彼処に淀んでいるものは人の幸せを喜ぶ綺麗な存在ばかりではない」
って偉い助言したの。でも彼らは全く聞かなかった。お寺の方はおばばの家側に傾いていたんだけど、供養を拒むことはできなくって、なし崩しに建設を推し進める立場になってしまった。
おばばの家はずぅーーーーーーと反対して、何度も何度も偉い人たちと交渉した。でもお寺を味方につけていたから、昔の偉い人たちは聞く耳持たずで、とうとう工事が始まった。
工事自体は問題なく終わったらしいんだけど、開校したときからクラスに何人かはいるんだって。
「ねぇ」
「どうして」
「どうしてきみたぁちはいぃの?」
「どうしてぼくぅたちはだめなの?」
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして」
と問いかけてくるこどもたちに捕まってしまう子が。
早くおとなになりたいね。
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