ウォーデン・フィロー
俺たちは闘技場にある貴賓室に来ていた。
貴賓室と言っても、闘技場にある物だ。そこまで豪華な作りではなくあくまで来客用といった趣の部屋だ。
本来、カナタが担当する第二試験までは闘技場で行う予定だったのだがその第二試験は中止となった。
俺がやり過ぎたせいだ。
闘技場の修繕、気絶した観客、魔術師への対応は騎士団が行っている。
中止になった事で不満が出そうなものだが、あれだけの戦いを見せた結果、盛り上がりは最高だった。
その為、不満はそれほど出ていないらしい。
今部屋にいるのは俺たち勇者パーティの四人と、第一試験を突破したおっさんと少女の計六名だ。
ここに来た以上はよっぽどのことがない限り合格だと思っていい。これほどの人材を逃す手はない。それはサナもわかっている。
「私の名前は皇城サナ! じゃあまずは槍の人! 名前を教えてもらえますか?」
指名された槍の人、もといおっさんが口を開く。
「オレはウォーデン。ウォーデン・フィローだ」
「もしや【炎槍】のウォーデンですか?」
アイリスの言葉で思い出した。冒険者関連の本を読んでいた時に見た記憶がある。
S級冒険者、【炎槍】のウォーデン。若くから頭角を現した天才。冒険者登録をしてからわずか数年でS級にまで登り詰めた猛者だ。
実際にいくつものS級迷宮を攻略している。故にノウハウがある。これからS級迷宮の調査を行う上で最高の人材だ。
「そう呼ばれることもあるな」
「アイリス。知っているのか?」
事情を知らないカナタが聞く。サナも首を傾げていた。
「有名ですよ。S級冒険者【炎槍】のウォーデン。いくつものS級迷宮を踏破している実力者です」
「それは頼もしいな」
「雷少年にそう言ってもらえるのは嬉しいねぇ」
「……雷少年」
あんまりな呼び方にカナタは苦笑した。
「雷小僧みたいだな」
「黙ってろレイ」
俺の余計な一言にカナタが睨みつけてくる。
「そっか。カナタには既にいい名前があるもんな【雷鳴鬼】?」
「そーいやお前サナに教えたろ!」
サナを見るとものすごい勢いで視線を逸らした。どうやら早速ネタにしたらしい。
「……だって言えって言ってるようなもんだったし」
確かに口止めはしていなかったなと思い出す。あの時は頭が働いていなかった。
そんな俺たちを温かい目でウォーデンと少女が見ていた。
「仲が良いんだな」
「幼馴染だからですね」
ウォーデンの呟きにアイリスが答えた。
「幼馴染? おかしくないか? 勇者ってのは異世界から召喚されるんだろ?」
「あーこれは伝えておかないとか。俺とカナタは異世界、地球の人間だ――」
俺は言い合いをやめて事情を二人に伝えた。
魔王は封印されている事、ラナを救い出そうとしている事、その為にS級迷宮の調査をしようとしていた事など全てだ。これから仲間になる以上、隠しておく必要もない。
「にわかには信じ難いが、自分の生まれた世界を捨てるぐらいだ。本当なんだろうな」
「これを踏まえて辞退するならそれでも構わない」
「まあ、でも魔王は倒すんだろ?」
「そうだ」
「なら問題ねぇな。それはそうと勇者の嬢ちゃん。一つ聞いていいかい?」
「なんでしょう?」
「嬢ちゃんはこの二人より強いのか?」
「全然! 私は二人より弱いです! まだ!」
「
サナが俺を見る。
俺としてはおっさん、もといウォーデンが入ってくれるならありがたい。
実力も申し分ないし今の俺たちに足りていない迷宮攻略の経験もある。
だから俺はサナの目を見てしっかりと頷いた。サナも頷くとウォーデンに向き直る。
「なら最後に一つ。何が目的で勇者パーティに入ろうとしたんですか?」
「金だよ金。ギャンブルでスッちまってな。無一文だ」
ウォーデンの言葉にサナが目を丸くする。俺とカナタは目を細めた。
……本当か?
勇者パーティに入れば聖王国や国々から支援金が出る。それは勇者が負ければ世界が滅ぶからだ。失敗は許されない。それに魔王を倒せば聖王国から莫大な報奨金が出る。
だからウォーデンの言い分は正しい。正しいのだが。
……違和感がある。
……それに本当に金が目的ならさっき魔王を倒すかどうかを聞く必要はあったか?
俺には別の目的もある気がしてならなかった。だから少し深掘りしてみる事にした。
「冒険者ってのは儲かるんじゃないのか?」
「儲かるさ。でもな冒険者ってのは明日をも知れぬ身だ。だからパーっと使っちまうのさ」
「刹那的だな」
「その通り! 墓場に金は持ってけねぇからな! それにどうせ迷宮は攻略するんだ。仲間が勇者となれば楽が出来るだろ?」
言っている事は間違っていない。
嘘はついていなさそうだが本心も見えない。そんな印象を受ける。
正直に言えばウォーデンという人材は喉から手が出るほど欲しい。だからひとまず入れてもいいとは思う。けれど全面的に信用は出来ない。
……これは少し調べる必要があるかもな。
俺はアイリスを見ると彼女も丁度こちらを見ていた。おそらく同じことを考えている。俺たちは頷き合う。
「まあ理由はアレだけど俺は賛成かな。迷宮に詳しい人材は欲しかったところだし。サナはどうだ?」
「私もレイと同じかな。理由はアレだけど。カナタは?」
「俺も構わない。理由はアレだけどな。アイリスもいいのか?」
「私も皆様と同じです。理由はちょっと……」
俺たちの言い草にウォーデンが苦笑した。
「息ぴったりだな……。ともあれ実力は保証するぜ?」
「それはあの戦いを見れば誰でもわかる」
「じゃあ、よろしくお願いします。なんて呼べば?」
「ウォーデンでもおっさんでもなんでもお好きに」
「わかりました! よろしくお願いします! ウォーデンさん!」
「俺はレイでいい。よろしくなウォーデン」
「おう。よろしくなレイ」
俺とウォーデンは握手を交わした。
「俺はカナタで頼む。雷少年はやめてくれ」
「わかった。よろしく」
カナタも握手をした。その後にアイリスとも握手を交わす。これでひとまずウォーデンが仲間に加わった。
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