標のペンデュラム
それから俺はひたすらに本を読み続けた。
王族専用禁書庫の本を全て読破してからは通常の禁書庫や誰でも入れる書庫から本を借りてきて読んだ。
古代の遺跡や魔物の本から伝承や御伽話まで様々な書物を読んだ。
そして魔導具図鑑という本を読んでいた時、遂に見つけた。
「
見た目は、鎖の先に宝石が付いた振り子だ。普通のペンデュラムと何ら変わらない。
日本だと占いやダウジングをする時に用いる。
標のペンデュラムは名前の通り、失せ物探しをする際に使う魔導具だった。
使い方は至って簡単。ペンデュラムを持って探している物をイメージするだけらしい。そうすればペンデュラムが方角を指し示す。
俺は思った。
……これ。人に使えるんじゃないか?
もしそれが可能ならラナの居場所がわかる。
俺は魔導具図鑑を抱えると急いで禁書庫を出た。一刻も早くアイリスと相談したかった。
やってきたのはアイリスの私室だ。
俺は魔導具の知識がそんなにない。だからまずは可能かどうかをレスティナの人間であるアイリスに相談しようと思った。
俺は扉の前で呼吸を落ち着かせてノックをした。すると中からはなぜかサナの声が返ってきた。
「どなたー?」
「レイだ。アイリスはいるか?」
「いるよー。ちょっと待ってねー」
扉を開けたサナが俺を部屋の中へと招く。
そこにティーセットを持ったアイリスが出てきた。
「あら? レイさん? どうしたのですか?」
俺を見て首を傾げている。
「そうだ。これからお茶にしようとしていた所なんですがレイさんも如何ですか?」
「ああ。頂くよ。ありがとう」
ちょうど休憩にしたかったのでアイリスの好意に甘える事にした。
アイリスが再び部屋の奥へ行くと、カップをもうひとつ持って帰ってきた。
いつものようにアイリスが自らお茶を淹れてくれる。全員のカップにお茶が注がれるとティータイムの開始だ。
俺は一口お茶を飲むと、持ってきた本を机の上に広げた。
「アイリス。これを見て欲しい」
そのままペラペラと捲り、目的の魔導具が記されたページを開く。
そのページをアイリスとサナが一緒に覗き込んだ。
「「標のペンデュラム?」」
二人の声が重なった。
アイリスが真剣に記載されている内容を読んでいく。数秒で読み終わったようですぐに顔を上げた。
「確かにこれなら可能かもしれません。
確かにアイリスのいう通りだ。人をイメージするより星剣をイメージした方が確実そうだ。
それに星剣ならしっかりとこの目で見ている。イメージはしやすい。
「ラナ自身をイメージできればと思ったんだけど星剣は盲点だった」
「でも自分がイメージしやすい方で大丈夫だと思います。レイさんならお姉様を思い浮かべた方が確実かもしれません。なにせ世界を超えるぐらいですし」
アイリスがふわりと微笑む。
面と向かってそこまで言われるのはなんとも気恥ずかしい。
「ならこの魔導具が手に入れば……」
「……可能性は高そうです」
ならば目的はS級迷宮なんかより標のペンデュラムだ。
こちらの方が確実性が高い。あとは入手方法か。
こういう魔導具は遺跡型の迷宮から出土する事が多い。
これは遺跡に魔導具が眠っている事が多く、そこに迷宮ができるからだ。
ここ数日、迷宮関連の方を読んだから知っている。
しかし膨大な数ある迷宮の中から目的の魔導具を探すことは極めて困難だ。
それは砂浜で宝石を見つけるような物だ。
「……持っている人を探すしかないか。アイリス。当てはあるか?」
「一人います。これは丁度いいかもしれませんね。私もレイさんに話しておきたいことがあるのです」
「話?」
「ええ。明日、勇者パーティへの参加希望者が王都に集まり選抜試験を行います」
「もう明日か」
忘れてはいなかったが、明日だとは思っていなかった。
徹夜続きだったり昼間に寝ていたこともあり日付の感覚が曖昧になっていた。
視線を感じサナの方を向くとジト目でコチラを見ていた。
言いたい事はわかるので話を変える。
「それと魔導具の話に何の関係が?」
「夜はパーティーを開催する予定です。名目は勇者パーティのお披露目です」
本にも書いてあったが勇者が召喚され、勇者パーティのメンバーが決まると毎回こういった催しが開かれている。
今回も例に漏れずという事なのだろう。
「そこに隣国、シルエスタ王国のキルゼ公爵がいらっしゃいます。シルエスタ王国には魔導具
「魔導具蒐集家か。たしかにそれはタイミングがいいな。じゃあ明日はそのシルエスタ王国の公爵とやらにコンタクトをとってくれ」
「お任せください」
ひとまず標のペンデュラムに関しての目標は決まった。一番いいのはブラスディア伯爵が所持している事だが。
……それは明日、話を聞いてからだな。
俺はお茶を一口飲み、息を吐いた。
この一ヶ月張り詰めていた緊張が解けた気分だ。
一気に疲れが押し寄せ、椅子にもたれかかる。
「お疲れ様です。今日はゆっくり休んでくださいね」
「ありがとう。そうするよ」
そこで俺は気になった事を聞くことにした。
「それで、勇者パーティへの参加希望者ってのはどれぐらいいるんだ?」
「千人ほどと聞いています」
「せっ!?」
飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。まさかそんなに多いとは思っていなかった。
「千人でも少ない方ですよ。なにせ募集したのは後衛と中衛だけですから」
「前衛がいない分少ないってことか。そりゃ選抜も大変だろうな」
すこし溢れたお茶を拭きながら言った言葉にアイリスが首を傾げた。
「他人事ではないですよ?」
「え?」
「レイさんにも試験を手伝ってもらいます。なので何か考えておいてください」
「なにかって試験内容って事か?」
「はい」
「そりゃ唐突だな」
「サナさんに言っておいたはずですが……」
俺はサナに視線を向けるとわざとらしく舌を出していた。
「忘れてた!」
「おい……」
半眼でサナを見るが、当の本人はどこ吹く風だ。
「だってレイ。禁書庫に籠りっぱなしで全然捕まらなかったんだもん」
「まあそう言われちゃ言い返しづらいな」
「でしょ!?」
だからといって忘れてたのはサナが完全に悪いのだが問答しても話が進まない。だから俺は話題を変えた。
「ちなみにサナは考えたのか?」
「私はお話!」
「お話って千人とか?」
「私は最後だからね。その頃には減ってるでしょ!」
「まあそうか……? ちなみに俺の試験って何番目か決まってる?」
「カナタとアイリスと話して順番は決めたよ!」
「ちなみに私とサナさんは一緒に三番目です」
アイリスがにこやかな笑みを浮かべる。
「ちなみにカナタは?」
「二番目!」
「おいふざけんな! なんでいない奴を一番目に持ってくるんだよ!」
「いなかったレイが悪い」
サナが悪びれずに言った。俺は頭を抱えたくなった。
「どうなってもしらねぇぞ?」
「まあレイならいい感じに減らしてくれるでしょ!」
「……そのいい感じってのが一番困るんだけどな」
それから丸一日。俺は頭を悩ませるのだった。
……まったく休めなかった……。
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