嫌われ者で最弱でデブのダメ王子に転生した俺は、魔剣と共に努力で成り上がる。
紅葉司
プロローグ
「はあ、体重い。全く、バイト先があんな地獄だとは……」
僕、
コンビニバイト、想像の斜め上を行くほど辛い仕事だ。
時間も深夜になりかけ、家も地味に遠い。
しかも、見た目のせいか、同じ高校生に嫌がらせもされていた。
毎日が辛い、家に帰っても親から暴言を吐かれる。僕に優しくしてくれたおじいちゃんおばあちゃんも息を引き取ってしまった。
妹も、父も母も、僕に愛情を注いでくれない。注がれるのは氷の様に冷たい冷酷な感情だけだった。
いっそのこと、死んでしまえばいいのだろうか? と思ってしまう。でもそれは違う、僕は死にたい訳じゃない。誰かの役に立ちたかった、誰かを救たかった。
「あああ! 考えるのはもう嫌だ!……帰ろう……」
自分が嫌になる。この環境が嫌だ。僕の親は金持ちだ、だけど残酷だった。愛情は全て完璧な妹に持ってかれた。
別に、お金持ち、裕福な家庭に生まれたい、なんて我儘は言わない、普通で良い、普通でよかったのに……。
「あれ、涙…が。情けないな、早い所帰らないと……」
歩く速度を早める。
神がもし存在するのなら、僕は貴方を恨んでしまう。こんな状況にする原因がいるのなら、僕はそいつを恨むだろう。
神が悪いのか? 親か? 妹か?
沢山の人物が頭の中に浮かぶ。皆んなの共通点は、誰も、僕に優しくしてくれなかった事だ。
親は一時期僕を愛してくれたのだろう、だけどそれは一時期。ほんの少しの期間だった。
「家に着いた。ふう、ゆっくりしないと」
親を起こしてしまうと怒られてしまう。深夜に帰ってくるな! という理不尽な事も言われた。
毎回毎回、我慢した、僕だってこの拳で反撃したかった。だがその行動を取ってしまうと待ってるのはもっとキツい日々だ。
カチャッと……静かにドアを開く。玄関で靴を脱ぎそのままリビングに足を踏み入れる。
「なんだ、帰って来てたんだね。ブタ」
「愛華……」
「名前で呼ばないでよ。それにしても、相変わらず気持ち悪い顔ね」
「僕だってなりたくてなった訳じゃ……!!」
思わずヒートアップしてしまう。
妹が憎い。ただそれだけだった。
「なに? その目は?」
「なっ、なんでもない」
右のテーブルの上にナイフ。妹の誕生日、ケーキを切ったのだろう。
俺はナイフを見つめる……一つの感情が湧いてしまう。
「なに立ち止まってるの? さっさとアンタの部屋に行ってくれない? 同じ空間にいたくないんだけど」
好き放題言ってくれるな……。
「あっ、アンタ、何をして……!?」
僕はナイフを手で持ち、振り下ろす……事は無かった。いや、出来なかった。
憎くても妹、腐っても妹、一人の家族だった。
殺せる訳がない、例えこの生活が続こうと、どんだけ辛くなろうと、殺せるはずがなかった。
「ごめん……」
コトンッとナイフを床に落とす。僕は急いで家を出た。
最悪だ、僕はなんて事をしようとしたんだ。
「もう……自分が嫌いだ、哀れだ」
そう思って仕方ない。
「ニャー」
猫の鳴き声。道路を渡ろうとしていた。
だがそこにトラックが走っていた。
助ける気は起きなかった。でも、誰も助けれずに死ぬよりは、一体の生物の命を救って、死んだ方がいいのか……?
結論に至るよりも先に体が動いた。
僕は猫を抱き歩道に投げる。勿論僕の体は倒れた。そしてトラックは目前で迫る。
体を轢かれた激痛、それと同時に僕は意識を失った。
最後に……猫が救えて良かった……。
目を覚ますと、真っ白な部屋にいた。
「お目覚めですか」
「……貴方は?」
「さっきの猫です」
「……すみません、夢を見ている様です」
人型というか、さっきの猫を名乗る女性がいた。
猫? な訳ないだろ?……いや絶対ないな。
「簡単に説明しますと、私は神です。暇だったので久しぶりに遊びに行こうとしたのですが、この服装だと面倒なことになるので猫の姿で遊んでいた訳です」
「なるほど……頭のネジが外れているですか?」
「神にそれは失礼ですよ?」
「すみません」
普通に顔が怖い。と、あまり状況が理解出来ないけど、本題を聞かないと。
「それで、ここに僕がいる理由はなんでしょうか?」
「お詫びです。私のせいで貴方が死んだので、異世界に転生させます」
「よくあるやつですね。本当に存在するんですか?」
「はい、しますよ」
そこで僕は少し考える。……転生、中身は同じだが、周り、環境や見た目が変わる。平和な生活が出来るかもしれない。
「嬉しそうな顔ですね」
「あはは、バレちゃいました?」
「顔にハッキリ出てますからね。それでは、異世界に転生する事は決定という事で、いいんですね?」
「はい!」
僕は元気よく返事をした。
「あ、魔剣の事ですけど…魔力を込める事で魔剣の効果が見れます。魔力を込める事ぐらい出来るようには設定しておきますね」
「魔剣……? まあわかりました」
楽しみ、としか思えなかった。
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