第24話:《重愛なヤンデレ》さんの噂


「茅実さんっ」

「……なにか?」

「あ、えっと……先生が渡したいものがあるから、後で職員室まで取りにきてくれないかって……伝言を頼まれて」


 わかりやすく困った顔をしながらクラスメイトの目が私から逸れてゆく。

 誰かと話すといつもこうだ


 三十人以上もいるはずの教室内の片隅。窓際真ん中の席に座る私に話しかけてくる人はほとんどがこんな感じになる。私を近寄りがたい人として認識して、必要なら話しかけこそするものの、ソレだけの行為にすらちょっとした勇気が要るのだろう。


 ごめんなさいね? 愛想が無くて。

 あなたも私みたいのに話しかけたりなんてしたくないでしょうにね。伝言を頼んだ先生にはさぞ恨み言を吐きたいのではないかしら。


「…………わかったわ」


 次々と浮かんでくる皮肉や嫌味の類いをぐっと呑みこんで、私は了解と返す事でクラスメイトを職務から解放した。ほっと一安心した彼女がそそくさとその場から離れようとする。


 その後ろ姿に向けて、私は言葉を加える。


「あの……」

「え?」


 私から更に声をかけられるなんて思ってもいなかっただろうクラスメイトが振り返る。再び顔を見せ合うハメになった彼女は「もしや何かやっちゃった!?」と言いたげな雰囲気があったが、別に何か窘めたいわけじゃない。


 ただ、どういった対応をすべきか上手く思いつかず、結局私は面白くもない最低限の言葉しか紡げなかった。


「伝言、ありがとう」


 たったそれだけの、事務的な感謝。

 それだけのはずなのに、彼女はとても意外なものを見つけた時のように驚きを顕わにしていた。


「う、ううん! どういたしまして!」


 ちょっと嬉しそうだったのは何故だろうか。

 ……クゥちゃんだったらわかるかな。後で少しでも長くお話しするための話題としてストックしてみようかしら。


 ぼんやり考えながら、私は身体の向きを正面に直して机の上に置いていた本に目を落とす。

 クゥちゃんがいない私の退屈な時間はもっぱらこんな形で消費されていく。こうしていればさっきのクラスメイトのように用がある人でもなければ早々絡んでくることはなく、何もしないよりもずっと有意義で建設的だ。


 わかりやすく人との付き合いが下手くそな、私なりの時間の使い方だった。

 とはいえ、いつもいつまでもこの読書タイムが続くわけでもなく、


「おいっす美夜子! クーちんがどこにいるか知らん? ってかどこかに隠したりしてる? ね、どうなん?」

「…………はぁ」 


 今日に限った話ではないけれど、うるさいのがまた来た。

 天敵である光属性の塊みたいな、陽気で明るいNTR好きな女神ギャル・光笠佳鈴さんのご登場だ。


「……もう少し静かにできないの? 大体ココはあなたの教室じゃないわよね? なぜ堂々と入ってきてるのかしら」


 ◆◆◆

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