噂の《重愛なヤンデレ》&《NTR好きな女神ギャル》がたまたま帰り道が同じな僕に絡んでくるのはラブ故にだった

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第1話:噂の彼と彼女×2

 決まった時間に鳴るチャイムを耳にしながら、

 空也クウヤは下校するために昇降口へ向かっていた。


 時折廊下ですれ違った見知らぬ生徒達が「あっ」という顔をして、興味津々に空也を眺めながら道を譲っていく。


 その行動に内心苦笑いをせずにはいられなかったが、空也自身はどうしてそんな態度を取られるのか理解しているつもりだ。


 それだけ、生まれつきのプラチナブロンドは目立つ。高校生になっても小柄で中学生以下に間違われやすい容姿も気になるところだろう。


 ――だが、「ですよねぇ」と納得している空也は大きな誤解をしていた。

 彼が興味の目にさらされる本当の原因は、


「あっ、待ってたよクゥちゃん。今日も一緒に帰ろうね♡」

「やっ、奇遇ねクーちん! せっかくだからあたしの下校に付き合いなさい♪」


 昇降口で空也を待ち構え各々の言い分で一緒に帰ろうとする、二人の個性的な少女達にあったのだから。


 ◇◇◇


「こんにちは、二人共」


 ほぼ同時に声をかけられたため、空也は二人に対して返事をした。

 その瞬間、ドロッとした黒いオーラが黒髪の美少女――《重愛なヤンデレ》の異名を持つ同級生の美夜子みやこから発せられる。


「クゥちゃん……私だけに挨拶してくれなかった。余計な尻軽がいるせいで……」

「なにそれ、あーやだやだ。陰気な人がいるとこっちまで暗くなっちゃいそう。クーちんに闇が移るといけないからどっか行ってくれないかな~」


 すかさず周囲を照らすような明るいオーラを放ちながら金髪美少女――《NTR好きな女神ギャル》と呼ばれたりする同級生・佳鈴かりんが反撃する。


 両者の間にバチバチッと火花が散った。

 示し合わせたかのように横にいる相手の方へと振り返り、美夜子の古風なストレートヘアーと佳鈴のボリュームのあるポニテがたなびく。


「クゥちゃんは私と帰るんだから、ね? 少しは自重しなさいよアバズレ女」

「そっちこそ少しは遠慮してくれます~? クーちんはあたしに付き合ってもらう予定で、コミュ障の相手をする暇なんてないのよねー」


 笑顔のまま一歩も引かずにぶつかりあう彼女らの背後には龍と虎が、天使と悪魔が、犬と猫が浮かび上がっているかのようだった。

 その危険な気配は偶然現場に居合わせた生徒達が恐れおののきながら後ずさりするレベルであり、何人もが靴を履きかえられなくて困ってしまう


「ねえクーちん~、今のあたしは遊びたい気分だからちょっと付き合ってよ~♪」

「あ!?」


 挑発するような笑みを浮かべたまま、先に動いた佳鈴が空也に身体を使ってすり寄るように絡み始める。こうしたスキンシップは彼女にはよくみられる行動であり、数々の男達が骨抜きにされていたりするため美夜子は気が気ではない。


「クゥちゃん。私、美味しいお店見つけたんだ。……一緒にいってくれる、よね?」


 対抗するかのように佳鈴の反対側に回りこんだ美夜子が、おずおずと懇願するように空也の上半身を抱きしめる。

 その際、本人にその気がなくとも実は立派な隠れ巨乳が空也に押しつけられて形を変えていた。ちなみに佳鈴も小さいわけではないのだが、美夜子のソレの前では圧倒的な戦闘力差があったりする。


 つまり、ライバルはイラッとせずにはいられなかった。


「あたしの真似して駄肉を押しつけるとか恥ずかしくないの!?」

「無駄なボディタッチで有利にしようとする女よりマシ。くやしいならあなたもやればいいじゃない……あ、ごめんなさい? 押しつけられる程……無かったわね」


 佳鈴の胸を鋭利な言葉の矢印が貫通した。


「ふ、ふふふ? まあ確かに、そんなにはついてないわ~。スタイルが崩れちゃうからね『贅肉』ありすぎると!!」


 返す刀ならぬ言葉が、視線の先にあるお腹を深々と切り裂く。


「ぜ、贅肉じゃないですけど!? 少なくとも男をたぶらかして喜んでるあなたのような心の贅肉はついてないわ!!」

「言いがかりにも程があるっしょ!」

「そっちが先に言いだしたんじゃない!」

 

 あわやキャットファイトか。あるいは凶器を用いた刃傷沙汰か。

 そう誰もが予想していたその時、


「二人共~、そこで言い合わないで。一緒に帰るんじゃないんですかー?」


 二人の少女に挟まれて難儀していたはずの少年が、何故か既に靴を履きかえていた。元々彼がいたはずの場所では彼の輪郭に沿って点線が点滅してるかのように何もなく、誰もが「え? いつのまに」という顔をしている。


 それは空也を巡って争っていた二人も例外ではなかったのだが、彼女達は彼女達ですぐに状況を理解して空也の下へと駆けていった。


「クゥちゃん、すぐ行くから!」

「先に行くのはナシでしょ!」


「慌てなくても大丈夫だよ」


 にこやかに言いつつも空也は玄関口を出て行こうとする。

 その後を美夜子と佳鈴が慌てて追っていたので、昇降口付近は一気に元の平穏さを取り戻した。巻き込まれそうだった生徒達も一安心である。


 その中の誰かが呟いた。


「アレが噂の……」


「《重愛のヤンデレ》と」

「《NTR好きの女神ギャル》……」


「それから、いつも絡まれてる大変な男子生徒かぁ」


 その噂は生徒達の間でアップデートをしながら広まり続けている。

 いわく、奇跡的なバランスで成り立っていそうなその三人に安易に近づいてはならない。


 ――特に、日本人離れした空也なる人物に対して女子が手を出そうとするのは絶対後悔するから止めておけ、と。騒動の一端を垣間見たものは、皆が口を揃えてそう言うらしい。



「でも、ほんとに不思議なぐらい帰りがよく一緒になるね」

「……たまたまよ」

「そう、たまたまたまたま♪」


 

 たまたま帰り道が同じな彼・彼女らは、今日もまたさながら仲良しのように歩いていくのだった。


 噂が、また増えた。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ここまでお読みいただきありがとうございます!

お手数ではありますが、

イイネと感じたら『♡』を。


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