切った張ったのスッタモンダ

 おじいさんは目をかっぴらくと、すぐに土下座をして大声で叫んだ。

「どうか、この村をお救い下さい!!!」

「えっ、いや、ちょっと……」

「最近この村は、たびたび鬼に襲われております。財産だけでなく、食料や若い連中までもが連れ去られております。年寄りだけでは生きられません。どうかどうか……」

いつの間にか、おばあさんまで一緒に頭を下げていた。

「お願いします!」

「…………………………」

 良月は困り果てた。急に別の世界に来たら、突如として英雄視される。夢が現実か、死後の世界なのかすら分からない。来た理由も帰る手段も、分からない。分からない事だらけなのに、なぜ命がけで、赤の他人の世界を救わなきゃならないのか。だがおそらく、世界を救わないと元の世界に帰れないのだろ。今まで見てきた創作物では、だいたい相場が決まっている。帰るなら、やるしかないのか。

悩んでいると、外から助けを求める声がした。

 


人々の悲鳴や物が壊れる音、そして何かの唸り声が聞こえてきた。良月が声のする方を見ていると、おじいさんは急いでタンスの奥底から何かを取り出して差し出してきた。

「コレをお使い下さい。」

「……刀、ですか。」

「戦える者も、使える者も、いません。どうか!」

「………………………………」

 刀を受け取るという事は、桃太郎として世界を救う事を認める事になる。しかし、他人の為に命を落とす覚悟なんかない。そのまま逃げる事も考えた。それが普通だからだ。戦う力の無い者が行っても、意味が無い。覚悟を決めて、二人に逃亡の旨を伝えようとした瞬間、何かが家の戸を吹き飛ばした。よく見ると、傷だらけの人が戸の上に倒れていた。それを見て、良月は言った。

「僕は桃太郎じゃないし、世界を救う覚悟も無い。死ぬのは怖いし、痛いのは嫌です。」

「えぇっ!」

「でも!でも!!!目の前の苦しんでいる人達をを見捨てる方が、もっと嫌です!!!」

良月は刀を握り、外へと駆け出した。逃げる人たちに逆らい、混乱の中心へと足を進めた。


「出てこい、鬼ども!俺が相手だ!!!」

良月は襲われている家の前で叫び、誘い出そうとした。物音が止まり、いくつかの足音と共に何かが家の中から出てきた。その姿に、良月は驚いた。

「おっ?鬼???」

「グルルルル!!!」

赤や青の体色に、ツノが数本ほど生えた、虎柄パンツと金棒。こんな鬼を想像していたにも関わらず、全く異なる存在が現れた。

どう見ても、だった。

数匹のゴブリンと一匹のオークが、良月を威嚇する。お互い睨み合いながら、ゆっくりと抜刀した。刀の鍔と鞘にかけて紙が貼ってあったが、容赦なく破いた。封の文字と一緒に〈村正〉の名が書いてあったような気がしたが、妖刀かどうかは今更どうでもいい。

「キィィィィ!」

数匹のゴブリンが一斉に襲いかかる。いつもの喧嘩の様にヒラリとヒラリと避け続けた。今度はこっちの番とばかりに、刀を振るった。斬りつけて来たゴブリンをかわし、通り越した背中を斬りつけた。そして倒れたところを、良月は突き刺しトドメをさした。棒を持ったゴブリン2体に同時に襲撃された時、サッとしゃがんで同士討ちを狙った。互いの棍棒が当たり、よろめくゴブリン達を両断した。そうこうしている内に、敵はオークだけになった。オークは近くの家の大きな柱を引きちぎると、棍棒の様に打ちつけてきた。流石に受け止めきれないと両月は思い、スッとかわして懐へと入り込む。力は強くとも、スピードが遅い。良月はすぐさまオークの体に、斬撃を叩きつけた。が、思った以上にオークの表皮が頑丈だったのか、傷ついたものの倒れない。鎧も身に付けず、全ての攻撃が致命傷になりうる今の状態の良月には、誤算だった。お礼とばかりにオークが柱で薙ぎ払うと、良月は吹き飛ばされてしまった。

「カハッ…………」

地面を転がり、柱の当たった痛みに悶えている内に、オークが近づいてきた。確実に当たる様に見定めてから、先程よりも強く柱を叩きつけてきた。

「ウオオオオオーーー!!!」

ドゴーンととてつもない音が周囲に鳴り響き、土埃と衝撃が巻き起こった。土埃が収まると、叩きつけた場所には肉片も血溜まりも何もなく、柱の近くに半転して避けた良月が寝転んでいた。オークは再び叩き込もうと腕を上げる前に、良月が飛び起きた。そして振り下ろしていたオークの腕を踏み台にして、一気に刀の刃を突き立てた。

「喰らえええぇぇぇェェェ!!!」

驚いて開いたオークの口に刀を突っ込み、口内の上側から脳天を貫いた。そして良月が地面に落ちる力を利用して刀を引き抜くと、意思の亡くなったオークの体は力が抜け崩れ落ち、ドスンと大きな音を鳴らした。


 戦いが終わり少し経つと、刀を差し出したおじいさんが大急ぎで駆けつけた。その顔には、安堵・驚愕・興奮・感謝などといった色々な表情が見てとれた。

「倒したんですか!?」

「ハァハァ……なんとか…………」

「凄い!……」

「刀が使えて良かったです。フゥ……」

「腕に覚えが?習っていたとか???」

「いえ。むかし友人に、基礎の基礎をかじらせてもらった事があって。」

「ほぼ我流!?それで、この結果ですか…………」

またしばらくすると、逃げていた村民たちが戻ってきた。現場の状況を見て、おじいさんと同じような表情であった。たちまち、村は歓声に包まれた。

「鬼が倒れたぞ!」「助かったー!」「ありがたや……」「万歳!」「ざまぉみろ!」「良かった良かった……」

しばらくして、落ち着きを取り戻した村の人たちが片付けをしているなかで、良月は家の縁側で手当を受けつつも気になる事を聞いた。

「さっきのについて、聞いてもいいですか?」

「何か、気になることでも?」

「あまりにも、想像していた鬼とは違ったもので。」

「確かに。我々も最初に聞いた時は、とてつもなく大きくて強い一匹だと考えていました。ですが蓋を開けてみれば、中くらいとちっこいのがチラホラ。まぁ、タチの悪さはコッチでしたが。」

「鬼というより、ゴブリンとかオークって感じでした。」

「ゴブリン?オーク???」

「いえ、なんでもないです……」

良月は頭の中で、整理した。ここは、昔話の桃太郎の世界なのかもしれない。そして俺は桃太郎らしい。桃に入ってなかったのは置いておいて、鬼とされてるヤツらが全く別の世界の存在のゴブリンやオークなのはどういう事なのか。気になる事だが考えても分からないので、目先の目標に取り組む事にした。その為に、村の人たちと話し合いを行なう事にした。


 夜、おじいさんとおばあさんの家に村の人たちを集めてもらった。村の大きさの割に人が少なく、お年寄りでばかりだった。

「「「桃太郎さま、ありがとうございました!!!」」」

「あっ、あぁ、どうも。皆さんも無事で、何よりです。ところで、いくつかお話があります。まず、この村の守りを固めて下さい。倒した連中の仲間が、復讐に来る可能性があります。来なくても、別の連中が襲って来るかもしれません。」

「「「そうだそうだ」」」

「次にですね、この村を襲っている連中の拠点を攻めます。そこを潰さない限り襲われ続けてしまいますので。」

「「「恐ろしくて、無理です」」」

「自分が独りで行うので、大丈夫です。拠点の場所について、何か知っている方は?」

「「「…………………………」」」

しばしの沈黙の後、奥の方に座っていた若い男が手を挙げた。

「おら、分かりますゥ。逃げてきたのでェ。」

「本当ですか!」

「村の裏にある、山の向こう側の平地にありますゥ。ソコでみんな働かされてますゥ。」

「分かりました。その人たちの為にも、頑張りましょう!」

「「「「「おおおーーー!!!」」」」」

 

 

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