Distrust of Men
キザなRye
第1話
「
怜菜の親友の
「図星だね」
夏織の言葉に何も言い返せずに怜菜は俯いてしまった。
「彼と連絡はきちんと取ってるの?」
さすが親友である。怜菜の恋が実るように手助けをしてくれる。その思いに気付いたのか、怜菜は夏織にしか聞こえないような小さな声でぼそぼそと話し始めた。
「最近は……ちょこちょこ連絡してる」
「それは良いじゃん」
夏織に褒められてはにかんだ笑顔を見せてから
「このあと、どうアプローチしたら良いんだろう」
と怜菜は今後への不安を口にした。うんうんと首を上下に振りながら話を聞いたあとで夏織は今後の方針を怜菜に説明した。夏織の打ち出す今後の方針とは上手い具合に少しずつ“あなたのことが好き”であることを匂わせていくというものだった。文面上での匂わせの他に二人きりのデートに誘ってアピールするというのも含まれていた。怜菜は夏織の言葉に絶対的な信頼を置いていたので夏織の言った通りにすると心で決めていた。
数日間、怜菜は夏織から受けたアドバイスを元にして彼と連絡を取っていた。好きな感じを匂わせながら上手に駆け引きをするというのが怜菜の目下取り組むべきことだった。夏織からはどれだけ“好き”を匂わせられるかが鍵だと徹底的に言われていたので怜菜は必死に匂わせをしていた。
十分に匂わせをした怜菜は今度“引く”という段階に入った。夏織が言うには“好き”と近づいてきていたのに急に引かれると男は追いたくなるものらしい。怜菜は好きな男の子と今までは一日に数通やりとりしていたところを一日に一通送るくらいに急に変えてみた。日によっては一切連絡しないこともあった。相手の男の子は怜菜の連絡のペースに合わせて連絡のペースが変わるので怜菜が一切連絡しないと相手からも連絡はない。怜菜から連絡のペースを変えたのに相手から連絡が来ないかな、と気にしてしまう。むしろ怜菜の方が相手のことを追いたくなってしまっている。
今のこの気持ちをどうすれば良いのかと夏織に怜菜は相談した。
「これは気持ちをちゃんと伝えよう」
「もう伝えるの?」
「まずは二人でどこか出掛けて来てからだね」
「どういうところに行くのが良いんだろう」
「映画とかじゃない」
「なるほどね……」
「まあ、どこ行きたいか周りに聞いて下調べしたり本人に直接聞いたりして決めるのもありだと思うよ」
怜菜は緊張しながら二人きりで出掛ける誘いをした。行き先は彼と話をして行く上で決められたら良いなと怜菜は思っていた。文面上では喜んでいるのか分からないような文言ではあったが、彼は二人で出掛けることを了承した。行き先は彼が見たい映画があるということだったので映画館になった。
怜菜は映画館に二人で行くことが決まってすぐに相談に乗ってくれた夏織にその事実を報告した。夏織からは純粋な祝福のメッセージが返ってきた。さらに当日についてのアドバイスも受けた。これ以上はないほどの夏織からのメッセージだっただろう。怜菜にとっても当日に向けて良い準備が出来た。
怜菜は二人きりのお出掛けの日がまだまだかとその日を楽しみにしていた。多分前日にやるのがオーソドックスな当日の服選びを一週間前くらいにはもうしていた。もう既に完了したはずなのだが、怜菜は一週間前から毎日のようにコーディネートを作っていた。
さらには彼とこれまで交わしてきたメッセージを毎日のように怜菜は過去まで遡って読んでいた。メッセージから何か彼の情報を得るとかそういった目的は怜菜の中になく、ただ単に彼の言葉を噛みしめていたいだけだった。
そして迎えたお出掛け当日、怜菜は集合時間の30分前には着いて彼を待っていた。集合時間が近くなると落ち着きがなくなって怜菜は周りを歩き回っていた。本人は気付いていないが、緊張で顔が赤くなっていた。
もうまもなく集合時間になるというところで怜菜に彼から連絡が来た。
“今日は行かない”
彼から送られてきたのはその一言だけだった。来ない理由が何かあるわけでもなかった。怜菜からしてみれば決して納得できるような連絡ではなかった。
しばらくは呆然としていた怜菜だったが、徐々に冷静さを取り戻していった。冷静になったところで怜菜は夏織に電話してこのことを伝えた。夏織は怜菜の話をすべて聞き終わった後で
「それは信じられない」
とメラメラとしていることが伝わってくるトーンでぼっそと言った。
「私がちゃんと聞くから怜菜はゆっくり家に帰りな」
親友に対しては優しくて親友を傷付けた男には強く言う夏織はかっこよかった。
怜菜が家に帰ってから携帯を見ると何通か夏織から連絡が来ていた。彼と連絡を取ってくれてその報告なんだろうなと思いながら怜菜がメッセージを見ると案の定彼のことについてだった。
夏織が彼に聞いて得た情報によると怜菜に恋愛的な感情を一つも持っていなかったらしい。彼には付き合っている相手がいて怜菜からの恋愛的なアプローチを周りの人と楽しんでいたらしい。怜菜がデートに誘ってくるまでを楽しんでいたとのことで前々から彼女とデートの予定が入っている日だったらしい。集合時間のギリギリまで行くように見せてギリギリで行かない連絡をすることで怜菜の感情を上げて下げたいという思いがあったらしい。
夏織からは“しばらくは落ち込むだろうけど私が色んなところに連れ回してあげるし他に良い人探してあげるから大丈夫だよ”と怜菜にメッセージが来ていた。怜菜はこのメッセージを見て自分には夏織がいるんだと思えて気持ちがブルーにならずにいることが出来た。
怜菜は彼との関わりを通して沼らせてくる男には注意する必要があることを実感させられた。沼に入れられてしまうと冷静な判断が付かないことをきちんと覚えておかなくてはならないと怜菜は心から思った。
Distrust of Men キザなRye @yosukew1616
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