墓守りの腕時計
維 黎
第1話
カン カラーン カラン カーン。
軽やかで甲高く、それでいて荘厳さも醸し出すは
祝福を告げる鐘の音が空へと溶け、その空下では白亜の階段に並んだ紳士淑女らが撒く花の吹雪を通って新郎新婦が階下へと下る。
地に降り立った新婦は新郎を残してしばらく歩を進め背を向けたまま立ち止まる。
新郎は譲るようにその場を離れ。
この瞬間だけは主人公は新郎新婦ではなく。
誰に合図されることもなかったが、淑女たちが身を寄せ合うように集まると。
「それッ!」
新婦が後ろ向きのまま幸せに満ちた掛け声と共に勢いよく
💐 💐 💐
結婚相談所『GRAVE 』
”墓場”を冠するその名の結婚相談所は、その不吉な名とは裏腹に婚姻率98%という驚異的な数字を叩き出していることで有名だった。
付け加えるならもう一つ、
「
「ありがとう、
「智花先輩がいなくなると寂しくなるなぁ。それにちょっと。――ううん、だいぶ不安です。私が先輩の後を引き継げるかどうか。仕事ももう一つの方も」
「大丈夫よ、優香ちゃんなら。だから――はい。がんばってね」
寿退社をする智花は後輩の優香に自分が腕に巻いていた少し古ぼけたアナログの腕時計を外して渡した――瞬間、先ほどまで動いていた秒針がピタリと止まる。
「わぁ、すごい! 本当に止まった!」
聞いていた通りに時計が止まったことに素直に驚きの声を上げる優香。
(――まぁ、それはつまり優香ちゃんにはまだ相手がいないって証明にもなるのだけれど)
智花は内心で苦笑する。
所内でも99%の婚姻率を誇る結婚相談所『GRAVE』には
受け継いだ腕時計が動き出す時、その年内に結婚することになるのでその者は次の者に時計を譲って退社しなければならない。
『GRAVE』の所員――
結婚は人生の墓場と言われていることを皮肉って、自らが立ち上げた結婚相談所に『墓場』と名付けるような皮肉屋であることも一因だと、密かに囁かれていることを知っているのかいないのか。
本人のみぞ知るというやつである。
――了――
墓守りの腕時計 維 黎 @yuirei
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