彼女には煌めきの魔法を

小余綾香

第1話 あい

 ――だってさ、横に並べそうに思うじゃないか。

 

一位いちいくん、きれいな色を作るよね」


 鼻先で鉄色の髪が揺れ、有田ありたショウは振り返る。わずかなそばかすが温もりをかもす顔立ちはほころび、あいの瞳が俺をうつし込んだ。

 中等魔法学院初年しょねんの進級考査四日目のことである。虹をえがく実技試験を終え、教室はからになるまで後二人。俺は内心うろたえた。彼女は目立つタイプではなかったが、控えめな華がある。名前順が連続する俺達は結構、用事があったから、俺がその魅力を見付けるのに時間はかからなかった。一位イットウなんて凡人には迷惑な名に俺は生まれて初めて感謝した位で……つまり、個人的に話したことなんかなかったんだ。


「そ、そうかな。フツーだろ」


 俺は不審ふしんな男にならないよう動悸どうきを隠し、努めて素っ気なく応じてみせる。


「ううん。違う。虹って加減でくどかったり、うるさかったり難しいのに。すごく良かった」

「……有難う」

「進路は<芸>学?」


 俺は口をぽかんと開けてから、慌てて顔を引き締め、首を振った。


「ないない。進路調査は<理>学で出したけど、手堅く就職狙いで<行>か<公>かな」


 魔法は根源を研究する程、素質が必要らしく、高等魔法学院で頂点は常に魔法自体を発見する<素>学部。次が、見出された魔法を研究する<理>学部だった。只、この分野で生きて行くのは難しい。

 一方、魔法のことわりを実践する<行>は格下扱いされ易いが、就職に強かった。役人、軍人養成機関の<公>も同様である。

 そして、これらと一線を画すのが<芸>学部。魔法より芸術が主だから俺は考えたこともなく、たずねられたのさえ、この時が初めてだった。

 ところが、有田は目を殊更ことさらに見開く。そのつくろわない表情は愛嬌あいきょうとなって彼女を輝かせて俺には見せた。


「だったら、<行>の人体装飾科は?」

「え……」


 俺は答えにつまって有田を見返す。

 人体装飾科は文字通り、身を飾る魔法技術を修める学科。メイクや服、アクセサリーを投写や造形するため、魔法以外のセンスが強く求められた。

 これまた候補によぎったことさえない進路だが、有田の藍色の瞳は熱を帯びる。


「一位君くらい、色加減が上手かったら人気の装飾士になれるよ」

「……有田さん、そういうのに興味あるんだ?」


 俺は少し意外だった。飾らない素が有田の魅力と思っていたから。だが、それは彼女を少し傷つけたらしい。


「似合わないよね、私」

「そうじゃなくて! 俺が装飾士だったら有田さんにモデルをして欲しい、と思っただけ」


 寂し気に微笑む有田に俺は思わず口から出まかせを言ったんだ。

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