Gespenst
玲 -あきら-
序章
『化け物!』
初めて我が子を抱いた女が、甲高い悲鳴をあげた。十月十日、腹の中で育ててきた可愛い赤子。それなのに、女はひと目見て我が子をベッドへと放り投げた。
『落ち着け!鎮静剤を早く!』
『いやああああ!!!助けて!!殺して!!そいつを殺して!!』
錯乱した女は、医者たちから押さえ付けられた。しかし、それも致し方ないことだと周囲の人間は思った。
なぜならば、母親から拒否されてベッドの上で泣いている赤ん坊は、誰から見ても他と違う姿をしていたからだ。
『私が悪魔と契ったからなの……?あの男は、悪魔だったのね……おお、神様っ!!どうか、お助けください!!』
その女は出産した次の日に病院の窓から飛び降りた。父親は元々いなかった。悪魔に犯されて孕んだ子だと言っていたが、女が死んでしまったため、それを確かめる術はなかった。
病院の医師は、赤子を森に置き去りにする方法を選択した。この姿では獣の餌になり土に帰るよりも、人間の世界で生きていく方が辛いと思ったからだ。
医師は、流れ者の猟師にお金を払って赤ん坊の処分を命じた。悪魔を自分の手で殺したくなかった。
『すまない。君は生まれてきたことが間違いだったんだ』
医者はそう言って、持っていた木彫りの十字架を赤子の胸に置いた。
そうして産まれたばかりの赤子は、愛情を持って抱かれもせず、乳も与えられず、雷鳴が轟く薄暗い森に産着一枚で置き去りにされた。
その子の名前はゲシュペンスト。
青白い肌に、漆黒の髪の毛。額の左右に角が生え、口には野獣のような牙があり、薄く開いた瞳は、血のように赤かった。
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