墓守りの腕時計

猫又大統領

第1話

両国の間には広大な墓地がある。墓地が国境となった場所。


 100年前、その土地では長い間両国での争いが絶えたなかった。ある日、朝日が昇ったころ戦場に第三者が現れた。のちに両国はこの出来事をと読んだ。その攻撃により土地とそこで戦っていた兵士たちは汚染された。しかし、両国の戦士たちは力を合わせ彼らを倒した。


 その時、どれほどの被害があったのかは現在も両国では最高機密扱いとなっている。

 それから両国の主戦場はテーブルの上となり。平和らしきものは手に入れた。まだ、あの土地で汚染された兵士たちを置き去りにしたまま……。

 

別世界からの攻撃はそれっきりだったが、両国の国王の会談中に別世界の使者が現れ、謝罪と腕時計がひとつ送られた。

 その腕時計を身に着けるものは汚染による被害はなくなる。そして、あの土地にいる間は比類なき強さを手に入れる。


 だが時計は人を選び、どちらの国にも肩入れしない人間をえらんでいるようだった。選ばれた人間には栄誉と多額のお金が両国から渡された。腕時計の所有者はあの土地で墓を作り、守ることが仕事になった。


 時計は数十年間身に着けると自然に外れ、次の人間を選ぶ。

 だが、その腕時計と付けたもの達は時計を外すと二日の間に皆亡くなった。

 その話が広まったことと、戦争の記憶が遠のいたこともあり腕時計の所有者に名乗りを上げるひとは少なくなりその中から選ばれることはなかった。

 


 国境で私は彼女に声をかけた。

「あの……墓守の娘さんですよね」

「ええ、前の。まだ決まってないからそう呼ばれますけど。決まってないんですよね。新しいかた」

「はい。汚染も弱まり墓守がいなくなった土地の争いが懸念されていて……あと時計の返却をしにきました」

「腕時計はもう必要ない?」

「ここは危険です両国が付近に集結して……」

「誰も選ばれなくて幸せよ。私なんて父が選ばれてほとんど想い出ないの。父との思いで……私が小さい時に行っちゃったから……」

 彼女は目元をハンカチで押させながらそういった。


 ハンカチをしまうと彼女は腕時計を付けた。

「新しい墓守ならいますよ」

「嘘で両国の民の命は守られません。事態が悪化するだけです」

「人を嘘つき呼ばわりなんて、ずいぶんと浅はかですよ。お役人さん」

「墓守の時計よ。時を告げよ。私が次なる主となる」

そういい終わると少しの静寂のあと、腕時計から鐘の音が聞こえた。

 

未来と引き換えに。時計の針は動き出す。

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