第8話 新たな一週間

瀨見良さんの特訓が始まってはや一週間がたった日、先日会長に来週の月曜日は直接教室へ行かずに一度生徒会室を経由してほしいといわれ、一週間ぶりに生徒会室へと向かうことになっている。

今はその最中で、赤みがかった綺麗な夕陽が生徒会室へと続く部活棟の廊下へ大きくつけられた横長な窓から差し込み、真っ赤に染まっている。一週間たった今、仮入部期間はすでに終わり、あの時ほどのお祭り騒ぎ感はなくなっていたものの、たまに通る文化部の部室からは和気あいあいとした声が漏れ出ている。

いいなぁ部活って。僕も余裕ができたら部活に入ってみたいなぁ。ね、鏡谷。

鏡谷に共感を求め、心の中で呼びかけてみるが、やはり返答はない。

なぜかは分からないが、あのゲームをした日から鏡谷と話ができなくなってしまった。ただ、ペルソナの能力を使うことはでき、この一週間で何となくではあるが制御ができるようにはなった。

でも、鏡谷と一緒に特訓できないのは、なんだか寂しいな…

そう思った途端に心の中が寂しさに覆い尽くされる。

これではダメだと思い、思い切り自分の頬をパチンッ!と赤くなるほどの勢いでたたいて自分に気合を入れる。

「いつか鏡谷も戻ってくるかもしれないし、頑張らないと!」

思わず声に出してしまったとき、目の前には「生徒会室」と書かれた教室の扉が大きく立ちはだかっていた。

「し、失礼します」

恐る恐るそっと扉を開けると、会長にこっちこっち、と会長が座っている会長席の前まで手招きをされた。

手招きをされた方まで歩いていき、会長席の目の前で止まると、会長は話を始めた。

「高貴に特訓をしてもらって一週間がたったから、今週はまた別の人に特訓してもらうことになるよ」

「別の人って、誰ですか?」

「それは、教室へ行ってからのお楽しみ、かな」

もう部屋へ先に行って待っているよ、と会長に言われ、ありがとうございますと言って、いつもの教室へと向かう。



新しい人って、誰なんだろう?生徒会室にはまだ会長と瀨見良さんぐらいしかいなかったから、誰なのか全然分からなかったなぁ。でも、とりあえず行ってみないとね。

再び赤みがかった夕陽に染まっている渡り廊下を渡り、今度は一週間お世話になった「第二生徒会室」へと向かい始めた。

第二生徒会室がある場所はすでに使われていない教室が物置となっているような場所で、近くで部活動をしている教室はなく、仮入部期間が終わって静かだった。

たまに生徒の人が近くを通ることがあるが、だいたいが第二生徒会室の方まで来ることはない。あっても隣の教室か、向かいの教室がその部活の物置部屋となっている部屋に用事がある生徒くらい。

そんな教室が連なる廊下の突き当たり右手にある教室には、街中のカフェで見かける黒板タイプの看板に「第二生徒会室」と書かれ、扉にを見つける。

あれ?一週間前まではこんなのれんはなかった気がするんだけどな?

まあいいか、と特に気にすることもなくいつも通り失礼しますとゆっくり扉を開ける。

その先にはいつも通りの何もない部屋に対面するように置かれた二席の椅子があり、その一席に一人の生徒会役員の人が座っていた―――

「「え?」」

訳ではなく、なぜか女性の、古井桃花ふるいとうかという生徒会役員の人がなぜか着替えをしていた

「ち、ちょっと!早く扉閉めてよ!!」

「す、すみません!!!」

古井さんの着替えをしているお姿を見てしまった罪悪感と、思春期ならではの気持ちが混ざりに混ざって心の中がぐちゃぐちゃになって、勢いよくガタンッ!と扉を閉めてしまった。

勢いよく閉めた扉にもたれかかり、今日の夕陽のように赤く染まった顔をいつもの肌色に戻すために一度深呼吸をする。

「ね、ねえ家司けいしくんから何も言われなかった?」

「は、はい!何も言われてません…」

「そ、そっかぁ…」

いきなり声を掛けられて驚いてしまい大胆な返事をしたあと、われに返ってデクレシェンドをかけた返答をした。ちゃんと言ってねってお願いしたのに…と聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声でブツブツと誰かに向けて古井さんがつぶやき始めた。ぐちゃぐちゃになった心を落ち着かせようともう一度深呼吸をすると、さっきのことが映像として頭に浮び上がる。

桃のように透き通った肌に、程よく膨らんでいた胸がなぜか強調して映像になる。

あぁ…僕っていう存在がいなくなればいいのに…

「僕みたいなのが…すみません…」

「いやいや!わ、私こそまだ来ないでしょって油断してて…」

幸四郎くんは何も悪くないから!と、必死に僕のことをフォローしてくれようと扉越しに古井さんが声をかけてくれる。

古井さん、本当に申し訳ないです…

と、心の中でもう一度古井さんに向けて謝罪の言葉を送る。

そのときガタガタと、いびつな音を立てて第二生徒会室の扉が開く。

「こ、今度こそ大丈夫だから!ささ、どうぞどうぞ〜」

と、すごくひきつった笑顔で教室の中へ招待される。

「あ、ありがとうございます」

何もない部屋に置かれていた二席の椅子がなぜか撤去されており、何もない部屋が文字通り本当に何もない部屋へとなっていた。



「よし、それじゃあはじめよっか」

「は、はい!よろしくお願いします!」

返事をしたときに今目の前にいる古井さんと、さっきの着替え姿の古井さんを頭が勝手に重ね合わせてしまい、変に緊張してしまう。

「それじゃあ、まずは自己紹介からかな。私の名前は前にも言ったけど、古井桃花って言います、よろしくね!」

「は、はい、僕は神谷幸四郎と言います、よろしくお願いします」

そんなにかしこまらないでいいよ〜と同じように自己紹介をした後に言われる。

かしこまってるつもりはないんだけどなぁ。

「早速だけど、この一週間の内容を説明するね」

そう古井さんが言って説明が始まった。

「この一週間で、幸四郎くんには人とのコミュニケーションをある程度取れるようになってもらいたいんだ」

「えっ、こ、コミュニケーションですか?」

そんなの無理ですよ!と拒絶するように言う。

「まあ、正確には人との距離感のつかみ方をマスターしてもらおう!って感じかな」

「な、なるほど?」

距離感のつかみ方って、何をするんだろう?

「例えば、どんな特訓をするんですか?」

「おっ!いい質問だね〜例えば―――」

そう言い、ゆらゆらと僕がいる方へと向かって歩き、あと一歩でぶつかってしまうという所まで古井さんがくる。

そこまでくるや否や流れるように僕のことを思いっきり両手で押し倒し、僕が下で古井さんが上から倒れ込むような姿勢になり、僕の耳元で大人びた声をした古井さんが一言、僕にささやく。

「こんなの、とかね?」

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不器用でも生徒会長になれますか? 手宮佐久人 @temiya

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