第1話 生徒会室

「授業は明日からだから、今日はもう下校な」

入学式を終え、各教室で授業や教科書の説明をひととおり受け終わった1年生は、それぞれ帰り支度を始めた。先生から言われたとおり、この後は下校だが、校内を見て回ってもいいことになっている。だが、教室中にそのような雰囲気はいっさいなく、

「この後はどうする?」「早く学生寮見にいこうぜ〜」「早く帰って漫画読も〜」

などという早くも仲良くなった生徒や、同じ中学校の仲間たちがこの後の予定を話し合っていた。当然僕にはそんな友達はおらず、1人で帰り支度を進めていた。みんなが帰るなら校内に残る人は少ないだろうし、少しだけ見てみようと決め、僕は早速教室を飛び出た。

…校内探検を始めたはいいものの、校舎が広すぎてどこから回ればいいのか分からないなぁ…多分だけどほかの人たちが家に帰るのはこれも理由の1つなんだろうなぁ。とりあえず気になるところだけを回ってみよう。

この学校は、校舎が生徒棟、部活棟、職員棟の3つの棟に別れている。普段は生徒棟だけしか立ち入らないのだが、放課後には部活棟にほとんどの生徒が向かっている。部活棟では文化部が積極的に活動しているそうだ。僕は絶対に部活には入らないけど…ま、まあそれでもちょっとだけ見ておこうかな。何かの機会で立寄ることがあるかもしれないし。そう思い、僕は部活棟の方へと向かった。


部活棟と生徒棟をつなぐ1本の渡り廊下を通り、部活棟へ移動した。部活棟には生徒棟よりもはるかに教室の数が多く、その全ての教室に部活動の名前が書いてあった。

演劇部や野球部はもちろん、カバディ部や俳句部などのあまり見たことのない珍しい部活動もあった。

「すごいなぁ」

その量に圧倒され、ついつぶやいてしまった。

今日は1年生だけの登校のため、部室には明かりが付いていない。それでか、僕が歩くたびに足音が廊下に響き渡った。部活棟は2階建てで、1階も見てみようと階段を降りると、1つだけ教室に電気がついていた。

「なんだろう?」

気になった僕はそこへ行ってみることにした。

その教室は廊下の突き当たりにあり、気がつけば僕は教室の扉スレスレのところまで近づいていた。あわてて身を隠すようにそのばでしゃがんでしまった。そういえばこの教室は何部なんだろう?上を見上げると、そこには生徒会室と書いてあった。なんで部活棟に生徒会室が?中がどのようになっているのかが気になり、扉から顔をのぞかせて中を見てみることにした。教室の中はほかの教室と変わったところはなかったが、各生徒会役員分の席と応接用に対面に置かれたソファがあった。

「おい桃花!ここの資料を間違えてるぞちゃんと資料の見直しはしたのか?

「なんでそんなめんどくさいことなんかしなきゃいけないの〜?いいんじゃん別にテキトーで」

中からはそのような話し声と書類らしき紙にシャーペンを走らせる音が聞こえてきた。僕はその様子を無意識のうちに扉へ張り付くように見てしまっていた。って何やってんだ僕!?き、気づかれる前に早く立ち去ろう。うん、それがいい。そう思い立ち去ろうとした時、

「生徒会に何か相談があるのかな?」

と、後ろから声をかけられた。後ろを向くと、そこには僕よりもはるかに背が高く、とてもかっこいい生徒会役員らしき男の先輩が立っていた。

「あ…え、えっと…」

「うんうん。話したい事があるなら中で話を聞くから」

いきなり声をかけられどうしたらいいか戸惑っていた僕をその先輩は教室の中へ入れた。

教室生徒会室の中は、生徒会役員の人数分の席とパソコンが置いてあり、小さな会社のスタジオのような感じだった。教室の中に入れられた僕は、同じく教室に向かい合うように置いてあるソファに誘導された。

ぼ、僕これどうしたらいいんだろう…なんか勝手に勘違いされて中に入れられたけど、相談する事とかないんだよなぁ…と、とりあえず適当に話を流して帰ろう。うんそうしよう。

「君、1年生だよね?」

ボーッとしていたらしい僕にさっき声をかけてきた先輩はそう訪ねてきた。

「え、あ、はい……」

僕は戸惑いながら答えた。

「そうだよね。じゃあまずは自己紹介からだね」

僕がそう答えると彼はそう言い胸に手を当て言った。

「僕は立村家司たちむらけいし。生徒会長だよ。」

「え、生徒会長!?」

あ、しまった!つい声にだしてしまった…と、とりあえず僕も自己紹介しないと…

「あっ、え、えと、かみゅや幸四郎でしゅ…」

と、自己紹介はしたのは言いものの、重要な部分でかんでしまった。なんで僕はこうもうまくいかないんだ…

「幸四郎くんだね。よろしく」

「は、はい!よろしくお願いします…」

何とか名前を言えてホッとしていた僕をよそ目に、会長はそれでと話を切り出した。

「幸四郎くんはどんな相談があってきたんだい?」

あ、そ、そうだった早く話を流して帰らないと!

「じ、実は僕、小さい頃からずっと不器用で・・・」

って何してんだよ僕…まあ仕方ない。話すだけ話そう。僕は帰ることを諦め、自分のことを全て話すことにした。

自分は、人にあきれられてしまうほどの不器用なこと。この不器用は自分ではどうにもならなかったこと。そのことを全て話終わると、会長がそうか…と言いながらおもむろに立ち上がった。

「なら、君のその不器用を僕たち生徒会が治してあげよう。」

「なっ!立村!何勝手なことを言ってんだ!」

後ろで作業していた黒縁の眼鏡をかけた先輩がガタンッ!と勢いよく立ち上がった。

「なんだよ高貴〜いいだろ別に」

「だいたい不器用を治すってどうやって治すんだ!」

確かにどうやって不器用を治すんだろう?そう聞かれた会長は不敵な笑みを浮かべて言った。

「生徒会役員のできることを幸四郎くんに全てをたたき込む。」

「「は?」」

「まあそれは君が交換条件に乗ってくれればの話だけどね」

こ、交換条件!?ぼ、僕にできることは何もないんだけど、なんだろう?

「幸四郎くん。君には来年の選挙で生徒会長として立候補してもらう。」

「なんでですか?!」

僕はとっさに聞き返した。不器用を治してくれると言っていたが、どうして僕を?

「1年後の生徒会選挙で、君がどれほどまで変わったかを見てみていんだ。」

そ、そんなことで僕を推薦していいのか?そうだとしても不器用を治すためならするしかないのか?

「わ、分かりました。不器用を治すためです。やりましょう。」

 「ホントに乗っちゃうの!?」「な、なんで条件飲んじゃうの……?」「普通乗らないでしょ……」「なぜ乗るんだ!?」

僕が承諾すると、ほかの役員の人達がそれぞれ驚きの声を上げた。そりゃそうだよね・・・

「うんうん。みんなも喜んでくれてるねよかったよかった」

「「「「「喜んでない!!」」」」」

その会長の一言へ異口同音に言った。

「それじゃあこれからよろしくね幸四郎くん」

「は、はい!お願いします!」

これから楽しくなりそうだ!

「と、言う訳で、今日は無理だから明日また来てね幸四郎くん」

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