第2話貿易船の甲板で
2003年15月末。年末もまさか船の上で過ごすなんて、求人を見た時には思ってもいなかっただろう。上甲板で海を眺めていると、横に船長がやってきた。彼は身長が僕より低いが船乗りの誇りは誰よりも高い。
「どうだい、年末を船の上で過ごす気分は」
「いいとは言えませんね。隣町までって言うからてっきり2日くらいで着くと思ってましたよ」
そう言うと船長は、笑いながら言葉を返してくる。
「まぁ陸があった頃は、な。今じゃ隣町と言えど別の塔まで行くんだ。海流に乗っても、追い風が上手いこと吹いても20日はかかるさ。そろそろ昼食だから食堂に行くといいよ、遅くなったけど今日は君の歓迎会さ」
船長はトコトコと船主側へ姿を消した。言われた通りに船尾側にある食堂へ向かうため、階段を下りた。
この船は”クルミナ号”という名前で、種別は大型貿易船。大型なので自衛用の大砲なども備えている。船長曰く、
『まぁ今となっては海賊なんて見たことないけどね』
と、乗船時の説明で話していた気がする。小型貿易船と中型貿易船は自衛火器を所持していないため、大体の船舶は護衛を雇う。滅多に遭遇しないといえど、海面が広がり、相対的に少なくなっているだけで本当は海賊は居る。らしい……
食堂に着くと船員が集まっており、全員がこちらを見ていた。机には豪華な料理が並んでいる。するといつの間にか真横にいた船長が大声を張る。
「今日は宴だ! 胃に入る限り食らい尽くせ!」
応の声と共に手に持っていたお酒を、そんなに狭くもない距離をダッシュで詰めてきた先輩船員が片っ端から僕にかけてくる。全部各自が部屋に隠している酒で、全部を浴びた結果ベトベトのいろいろなフルーツの香る洋服が出来上がった。さらに中央の席へ胴上げ状態のまま連れていかれ、胃がはちきれんばかりの魚や陸から持ってきていた肉をこれでもかと食べさせられた。先輩船員たちも食べた魚の骨がそのまま標本にできるくらいきれいにたいらげており、用意されていた豪華な料理はわずか1時間で消えた。
船員室に戻ると先輩が酒をベッドの下から取り出す。
「まぁ、食堂でたらふく食ったんだ。こいつでも開けようじゃないか」
曰く先輩が自ら作った秘蔵の酒らしく、透明な瓶に入ったそれは黄金に見えるような色をしていた。グラスに注がれたそれを手に取る。柑橘類の香りと、ピンとするアルコールのにおいがした。瓶をよく見ると、ミカンが丸ごと入っている。
「先輩、どうやって入れたんですかその…注ぎ口より大きいミカン」
「フッフッフ、秘密だよ。さぁ飲むがいい」
先輩に勧められるがまま、酒を口にする。するとどうしたことだろうか、アルコールはキツイはずなのに優しい口当たりですっと飲める。呑み込んだ瞬間にカッと体が熱くなる。二口目で一気に飲み干し、グラスを机にドンと置く。
「お、いい飲みっぷりだ! もう一杯いっとけ!」
おいた瞬間2杯目を注がれ、美味しさからすぐにグラスに手を付ける。翌日、二日酔いのまま甲板で仕事をしていたのは今後数十年語り継がれることとなった。
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