小話 百合
ゆづき。さぶ。
すきなこいじめ。
いじめが発覚した。
「誰がこんなことをしたかわかりませんが、心当たりのある人は職員室まで来るように」
HRはそう締め括られ、なんとも言えない空気が教室に漂う。
いじめられたのは、金城ほのかさん。金城さんの上靴や体操服がゴミ箱から発見されたことで発覚した。
サァっと血の気が引いた。私もいじめグループに所属していたからだ。
金城さんは目立っていた。夏休みの後に都会の学校から転校してきた冷静沈着で容姿端麗で文武両道な女の子。かわいくてかっこよくて、隣にいるには眩しすぎる女の子。周りの目が羨望から嫉妬に変わるのは早かった。
「金城さん!」
「……何?」
HRが終わって教室を出た金城さんの背中に声をかける。
「ごめんなさい。今まで……!」
「……」
「でも、違うの!琴音ちゃん……宮里琴音ちゃんいるでしょ?あの子が私にやれって」
琴音ちゃんはいじめグループのメンバーだった。明るくて、はつらつとしていて、クラスの中心にいる女の子の1人だった。
「……そう」
「……!じゃあ、これからは仲良く……」
「でも、これを隠したのは藤沢さんでしょ?」
「え……」
それは確かに私が隠した、金城さんのノートだった。
金城さんは溜息をついて言った。
「みんなそう言うのよね。さっきも宮里さんに言われた。『藤沢さんにやれって言われて』って。もしかして、それが免罪符か何かだと思ってる?」
「あ……」
「私は別に気にしてないよ。物が無くなったなら先生に聞けばいい。それでも無ければ買えばいい。だから、別に気にしてない。……でも」
金城さんは私の目を見据えて言った。
「あんたたちがいじめをしたっていう、周りからの評価はどんなに謝っても拭えない。残念だけど、罪を誰かに擦り付けるような人とは仲良くできないかな」
「あ……ああ……」
私は呆然とした。終わった。こんなはずじゃなかったのに。もう一度、ゼロから新しい関係を築いていけるはずだったのに。
「金城〜帰ろーぜ」
クラスの男子が金城さんに声をかけた。
「今行く。じゃ、そういうことで」
金城さんはそのまま歩いていった。
……何よ。
そういうことしてるから、男タラシって言われるんじゃない。女子とつるまないのがカッコイイって思ってるの?そんなことしてたら、絶対またいじめられるに決まってる。琴音ちゃんだけじゃない。隣のクラスのみうちゃんやひとつ上の花梨先輩だって。
ムカつく。ムカつくムカつくムカつく。
「……私だって」
私だって、あなたと仲良くなりたかった。
あなたに好かれたくて、たまらなかった。
友達でもいいから、一緒にくだらない話でもして帰りたかった。
助けを求めてさえくれればいつだって助けたのに。1人じゃないよ、私がいるよって何度だって言いたかったのに。
「体育館借りたんだ、バスケしよーぜ」「え、また?どうせ私に負けるんだから無駄じゃん」「うるせー!」
肩を並べて笑い合う金城さんと男子。
夕日が涙で滲んだ気がしたのは、自分があまりに惨めだったせいだ。
好きな子いじめなんて、するんじゃなかった。
小話 百合 ゆづき。さぶ。 @ayaka007
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