第32話⁂鬼「隆牙」の末柄⁂

 

 金の「打ち出の小槌」御所車や古典四季花柄の艶やかな桜や牡丹、菊などの和花柄を贅沢にあしらった金色の「打ち出の小槌」である御所車は雅な王朝文化の象徴として、振袖や工芸品などに描かれる事も多い高貴な何とも美しい柄だが、この柄には続きが存在する。それが妃の一族が所有する金の「扇子」だった。


 実は…「扇子」には御所車や古典四季花柄の艶やかな桜や牡丹、菊などの和花柄を贅沢にあしらってあるが、桜の花びらが欠けている。金の「打ち出の小槌」と合わせる事でピタリと桜の花びらの欠けた部分は完成系となる。


 こうして初めて完成形となり、全てのものが手に入る黄金の「打ち出の小槌」と「扇子」のパ-フェクト系が完成する。


 それを狙ってこの 五つの扉「ファイブドアーズ星」の猛者たちが心血を注いでいるのである。


 

 ◆▽◆


 それでは、この五つの扉「ファイブドアーズ星」の恐ろしい争いの発端となった鬼「隆牙」の末柄を辿って行こう。  


 鬼「隆牙」の容姿は裸で頭はハゲ頭、鋭い角はウシ科のガウルそのもので歪曲している。身長は十五尺(4.545m)、肌は漆を塗ったかのように真っ黒で、 鋭いギラリとした目が三つで、まるで金属製の御椀が入っているかのように黒光りしている。大きな口には鋭い歯と牙、虎の皮のふんどしを締めて手には金棒を握りしめている。また変幻自在に化けて、生物を襲う事もある鬼「隆牙」だ。


 この鬼「隆牙」だが、「打ち出の小槌」は一般的に、鬼の持つ宝物とされるほか、大黒天(だいこくてん)の持ち物であるともいわれ、富をもたらす象徴として民話に描かれることが多い。



 ◆▽◆

 昔々「ジャイアントプラント王国」の南の島に、鬼たちの住む「オニ アイランド」が有った。

 見た目が醜く恐ろしい事から、過去に色んな嫌な思い出が有った。そこで鬼たちは、仮の姿人間に変身して生活をしていた。


 鬼は元来化けることが出来るので人間に変身して、自分達の幸せの島を築いていたのだが「オニ アイランド」近くで獲物を捕らえ生活していたワニが「オニ アイランド」の発展ぶりの凄さにビックリして、王様に話をしたのが全ての始まりだった。


 それこそ…今から百年以上も前だというのに、立派な最新鋭のビルディングが立ち並び、高級品に身を纏い闊歩している姿に啞然としたワニ。


 こうして…先々代の王の家臣たちが、人間型鬼たちが寝静まった真夜中に「オニ アイランド」に侵入して様子を伺っていた。


 するとどうでしょう。「ジャイアントプラント王国」本土では、王様と言えどもにょろにょろ土の上を這いずり回り生活していると言うのに、更に酷い話だが、洞窟のような所が王宮だというのに、ハイセンスな高級住宅が立ち並び、一般市民でさえ、各家々には高級車が当たり前のように止まっており、道路も舗装されていて、最新鋭の電車が勢いよく走っている。


(一体どういう事ヨ?王族一族より遥かに豊かな生活が送れるって…一体どんな秘密が隠されているのか?)


 また街の中心地にはオシャレなビル群が並び、最新機器が至る所に設置されていた。例えば大型スクリ―ンには映像が映し出されてビルの屋上からアイドル達が話し掛けている。至る所からミュ-ジックが鳴り響き、ガラス張りのオフィスからはロボット掃除機やロボット人間が、仕事をこなしてしてくれている。


「エエエエエエ————————————ッ!」


 こうして…「オニ アイランド」だけが、何故こんなに豊かなのか、秘密裏に調査団が送られた。


 その団長がヘレン妃の祖父だった。


 そして…ある事に気付いた。

 それはこの国の首相が、「打ち出の小槌」を振る事によって全てが編み出されているという事だ。


 それも「打ち出の小槌」を振るだけで、一瞬にして巨大工場が現れたり精密機器を生み出している。更にはロボット型人間も瞬時に編み出されている。

「エエエエエエ————ッ!お金までが「打ち出の小槌」を振るだけでジャランジャランと出て来るではないか?」実に不思議な現象の数々



 ロボット型人間は沢山産業目的で作り出されて、工作機械や自動車を作り出して行く。そしてお金は全国民に、毎月送金されている。

 

(これはどんな事をしても奪わないと、あんな卑しい少数派の輩だけに良い思いをさせて堪るものか!) 


 こうして…こっそり忍び込み、にょろにょろと天井裏に隠れて様子を伺った。


 暫く見張っているとそこに、首相の部下が金庫に「打ち出の小槌」を預けに来たところを蛇の毒で殺して、どんなものも振れば瞬時に出てくる「打ち出の小槌」を盗み出す事に成功した。

  

 その時、ヘレン妃の祖父は本当はくすねて自分の家の家宝にしようと思ったが、しっかり部下に見られてしまったので、仕方なくその時は王様に献上した。


 だがもう一つの扇子は、なんといっても団長と言う地位に有るので、こっそり自分が持ち帰り家宝とした。


 こうして…王家の家宝「打ち出の小槌」団長の家宝「扇子」が離れ離れになってしまった。



 だが…鬼たちの末路は悲惨極まりなかった。今までの豊かな生活とは程遠い自給自足の生活が待っていた。何の知識も無い「打ち出の小槌」に頼り切った生活の国民に何が出来よう?


 今までは、最新鋭の都市空間で、最新鋭の機器に囲まれ豊かな生活を送っていたのに「打ち出の小槌」と「扇子」を失い、やがて…徐々に滅びて行った。


 そして…極僅かの鬼が残った。だが「打ち出の小槌」と「扇子」が、無いので悲惨極まりない生活に追いやられていた。



 ◆▽◆

 時が過ぎたある日の事だ。

「ジャイアントプラント王国」本土の王宮では強靭な肉体の用心棒の募集が大々的に募集された。


 やっと、この時がやって来た。

 この醜い鬼の本当の姿を知らない本土の住民たちを、騙して「オニ アイランド」の宝物「打ち出の小槌」と「扇子」を取り返そうと用心棒の募集に応募した。

 それが、誰有ろう鬼「隆牙」だった。

 


 遠い昔、極僅かの「オニ アイランド」の住民は本土で細々と生活を送っていた。

 だが、余りの醜い姿に嫌われて、この島に流れ着いた苦い過去が有った。


 そして…二度とそんな辛い思いはしたく無いと思い、最初から人間に変装して「オニ アイランド」で生活していたので本来の恐ろしい姿を誰も知らない。


 すると本来の巨大で醜い姿が功を奏して、用心棒として取り立てられた。

 こうして…何十年も辛抱して、やがて「打ち出の小槌」と「扇子」の在り処を突き止めた。鬼「隆牙」は元来化ける事が得意だ。小さいノミに化けて金庫の隙間から侵入して透明人間に変身して鍵を開けて「打ち出の小槌」と「扇子」を盗み出し逃げた。






 









 

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