ふとなりあん

矢斗刃

光の未来を目指して

第1話 ふとなりあん

 ふとなりあん


それは県を府にすること。

決して太る話しではない。

将棋で歩がトになるような将棋の話しではない。多少もじってはいるが・・・



この日、県の知事がある宣言をする。

俺達二十人くらいの人はこの部屋でその様子をテレビで見ていた。


それは俺達が頑張って掴んだ成果。


それは俺達が示した光。


亡き友が託した思い。


今は去ってしまった同胞の願い。


そんなぐっちゃぐちゃなパズルを完成させた今日は記念日だった。



手に手にジュースを持ちその瞬間を今か今かと待ちわびる。


そうしてドアから知事が出てきた。


机のマイクに話しかける。


「今日の良き日に県は府として生まれ変わります。」


珍しく原稿用紙を持っていない。

今日を歴史に残る日にするために覚えてきたのかもしれない。


記者たちがフラッシュを焚いた。


「このことにもちろんすべての県民が賛成しているわけではないでしょう。ですが、我々県が前に進むため、そしてこの国がよりよく繁栄していくことこの二点の観点から、私たちは府として新たなる歴史をここに刻みます!」と堂々たる宣言だった。


俺達がなんども、なんども説得しに行っても首を縦に振らなかったのに、一体どんなマジックを使ったんだあの先生は・・・


各市の市議会議員や市長を回って粘り強く説得をした。

最初は難色を示していたが、段々と熱意を持って接していくと心変わりしていく人達も出始めた。


もちろん街頭なんかで演説や、署名運動もしたさ!


そして集まった署名で話しても首を縦に振らなかった知事。

ある意味凄いが、それがこう掌を返したように賛成に回る。

議会に根回しをして、この早期に決めにかかったらしい。


誰か決断力のある凄まじいリーダーにでも言われたのか?

俺は考えを巡らせると、この国の一番トップの顔の人しか思い浮かべる事が出来なかった。


「皆頑張ったね!乾杯!」と俺は音頭を取り、皆でジュースを飲みだした。

ごくごく。

「ぷはー。」と俺は美味しそうにいつもの奴を飲み干した。

周りの人間たちも話し始める。


「俺京子ちゃんと付き合うんだ!」

「おおう、おめでとう。」とか言っている会話が聞こえる。


「ですから、このことによって経済を・・・」とかまだまだ話し続けている。


「やりましたね兄様。」と声をかけてきたのはゴスロリ衣装の妹だったりする。

「ああ。」と俺たちは喜び合う。

「やったわね!」と更に声をかけてきたのは幼馴染だった。

「ああ。」と複雑な顔で返事をしておく。


二人は睨み合い、なんだかその視線で火花が散っているようだった。


俺はそこから離れる。


「先生。」とか呼んでくる奴がいる。

「よせ、俺は議員が一番嫌いな職業なんだ。そう言われると鳥肌が立っちまう。」


「ははは。」と皆が苦笑いだ。


「皆よくやった。これで終わりだが、お前たちならどこに行ってもやっていけるさ。」と皆に語りかけた。


それから何人かの人達に話しかけた。


「そして世界の玄関口として・・・」まだまだ知事の話しは終わりそうにない。


俺達はそんな話しを耳から耳へのどんちゃん騒ぎ。


皆が皆頑張った喜びを爆発させた。


俺はそんな謙遜から離れ隣の部屋に入って行く。

そこには親友の遺影が飾られてあった。


「お前が死んで意外にもそんなに経っていない。俺はもう、やり切ったよ。」

そいつのコップにオレンジジュースを注いでやる。


乾杯!と俺はその紙コップと紙コップを合わせた。


ドアが開く音がする。

ノックをしない人は誰だとそちらを見れば・・・


「なんだ、恋人さんか。」友人の恋人がそこに立っていた。


「貴方がやりたかったことはこれだったの?」と聞いてきた。


彼が死んで疎遠になっていた。

しかし彼の意思を僕等は継いだと思う。


その結果が正しいか正しくないか、それはまだわからない。


それを証明するには何十年と言う月日が必要になるだろう。


「ああ、これで俺は歴史に名を残した。幕末の志士ようにな。そして俺の志ざしを遂げるに至った原因さんに乾杯してくれないか。」


「ええ、今回だけは。」と言って自分の分のカップにオレンジジュースを注いでいく。

彼氏のコップに乾杯した後、俺のコップに乾杯してきた。


「おめでとう。」

「あんがとう。」とそれを飲み干す。


「・・・」

「・・・」俺達は何を話したらいいかわからなかった。


「ごめんなさい。」と彼女が言った。

「なんの事だ。」と俺は聞き返す。


「彼を貴方が殺したような言い方をして・・・」

「気にしてない。と言うのは嘘で割りと気にした。」


「・・・」

「そして俺も後悔したさ。あの時あいつの提案に乗って一緒に歩んでいたら、どうなっていたか、そして後悔したからこそここにいる。あいつのおかげなんだ。」


「うっ。」

そう言って俺は胸を抑え苦しみだす。


「なんで、急に悪化して・・・」お前が呼んでいるのか川山。


彼女が心配そうに声をかけて、叫び声を上げて人を呼ぶ。

スマホを取り出し救急車を呼んだらしい。

皆が俺の周りに集まって心配そうにしている。


それはやり切ってしまったからなのか?

その責任に潰されたからなのか?

川山が俺を祟ったのか・・・


それはわからない俺は病院に運ばれ、死んでしまったのだから・・・

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