第24話 安定供給は商売の基本です
「まさか、これほどの短期間で納めるとはな……しかも、立ち上げたばかりの商会が」
「これも全てはレオン様が商会を認めてくれたおかげです」
二人の間のテーブルの上には新ポーションが入った箱をいくつか積み上げ、それと一緒に今回の納品書を添えてある。
「謙遜するな。私は人の功を奪うほど、詰まらない人間になるつもりはない。しかし、エルフの大量雇用でこれを乗り切るとは思いも寄らなかった。実に面白い‼」
ここは一つ、エルフの汚名を返上しておいたほうがいいかも知れない。
なんといってもレオン公爵は人脈や名が売れているという点では王国随一の人だ。エルフへの印象を良くすれば、今後、王国民の間でも考え方が変わっていくかも知れない。
「エルフは実に優秀な種族です。今まで、虐げられていたのが不思議なくらいで」
「ほお。それほどか?」
これはいい感触なんじゃないか?
「ええ。個人差は当然ありますが、ダンジョンにおける戦闘力が高いものが多い印象です。もともと、ポーション自体はエルフがもたらした物ですから、製薬に強いのは当然ですが……」
「ふむ……私の考えているエルフとは少し認識が違うようだが……まぁ、よい。これからのことを話そう」
エルフの感触は上々だな。これで少しでも扱いが良くなるといいけど。
だが、僕は商人だ。人助けばかりしているわけにはいかない。
重要なのはこれからの話……。
「はい。我が商会は新ポーションの製造を更に拡張をすることが可能です」
「ほう……一万本程度では余裕か」
「もちろんです」
これは大きな嘘だ。正直、今の製造体制では一週間に二万本程度が限界かも知れない。
軍への納品分とダンジョン攻略者組への販売……それで終わりだ。
だが、軍は大きな取引先だ。
旧ポーションだって、週10万本程度は動いているはずだ。その牙城を崩さなければならない。
「実に頼もしいな。若き商人。だが、新ポーションへの認識はまだまだ薄い。効能を疑うものも少なくないだろう。だから、まずは一月ほど、毎週一万本を納品してもらいたい」
「分かりました」
これは予想外だな。
実は一旦は間が開くと思っていた。それを口実に、公爵から品質保証を受け取り、外で販売をしようと考えていたが……。
やはり、相手も簡単には品質保証という手札は切ってこないということだな。
まぁ、これを手に入れれば、僕の商会はポーションという分野では一気に一翼になれるという物だ。慎重になるのも無理はないだろう。
それにこれは、商会としても悪い話ではない。安定的に金貨を手に入れることが出来るし、次の規模拡大の軍資金にすることだって出来る。
ただ、問題は……。
「若き商人よ」
おっと、考え事をする悪い癖が出てしまった。
「失礼しました。今後のことを考えて……」
「よい。若き商人にとっては一言一句で全てが変わると言っても過言ではない。ゆっくり考える時間も必要だろう。それで?」
それで、とは何を聞いているんだ?
……なるほど、僕の考えを述べろという間なのか。
「納品の件は了解しました。しかし、ひとつだけお願いがあるのです」
「言ってみろ」
品質保証を受けられない状況で、今やらなければならないのは……。
「新ポーションの納品を受けたことを広めてもらえないでしょうか? もちろん、大々的にする必要はありません。書類や兵士の間で我が商会の名前が広がればいいのです」
「その程度でいいのか?」
「ええ。十分です。正直に申しまして、我が商会は弱小もいいところです。新ポーションは商会の命運を握る商品です。それが他の者の手に渡るのを防がなければなりません」
軍の書類は軍と取引をしている商会であれば、それなりに目に触れることも多い。
それだけで他の商会の新ポーションの販売への牽制となる。
わざわざ、軍に目をつけられるような行為は誰もしたくないからな。特に大商会は……。
「それは構わぬ。嘘を書くならともかく、事実なのだからな。とりあえず、一月。頼むぞ‼」
「はい‼」
まずは最初の関門は突破できた。
商品保証がない以上は、外に商品は流せないから、想定とは違ってしまったが、当面の金貨に困ることはないな。だが、一月後も油断がならない。
最悪のことを想定して、新商品開発もしたほうがいいだろう。
「商人さん。今日もいらしていたんですか?」
全く気づかずに素通りするところだった。レオン公爵の娘、マーガレット様だ。
「これは失礼しました」
膝を折り、臣下の礼を取る。
「今日は新ポーション納品の件で参りました」
「そう、ですか。それで? 首尾は上手く行きましたか?」
そういえば、お嬢様は商売に興味があると聞いていたな。
とはいえ、あまり多くを語るのは良くないだろう。一応は、軍の機密に関わる部分だからな。
「そうですね。レオン様には良くしてもらっていますよ」
「さすがですね。あのお父様を丸め込んでしまうとは。他の商人ではこんなにうまくやっている人はいないですわ」
それは違う気がする。
今回が新ポーションだから、レオン様は取引に応じたと思う。
もちろん、他の商品でも売り込む自信はあるが、今回の取引は僕でも驚くほど順調だけど。
「たまたま、運が良かっただけでしょう。さらに新商品を開発して……」
マーガレット様の顔が否応なく近づいてくる。
これは失言だったか……商売好きに新商品の話はこれ以上ないほど、興味をそそられる話だ。
「どんな? どんな商品を次を作ろうと思っていらっしゃるのですか?」
これは困ったな……。
今はまだ、形すら出来ていないからなぁ……。まぁ、あったとしても伝えるつもりはないけど。
「どうでしょう……」
「ねぇ、教えて下さいよ‼ 誰にもいいませんから‼」
困ったなぁ。
こんなところで道草を食っている場合ではないんだよな。
ここは適当に……。
「新ポーションの新たな可能性を……」
「あれを? どうやって? どんな風になるんですの?」
まいったなぁ……。
ふと、お嬢様の顔を見ると……若さで仕方がないのかも知れないが、肌が少し荒れていた。
僕もお嬢様と同じくらいのときには、顔に吹き出物が出来て、嫌な思いをしたものだ。
だが、待て……。
……イケるかも知れない。
いや、どうして、思いつかなかった? こんな、身近に商材が転がっていたじゃないか。
「商人さん? なんだか、悪い顔になっていますわよ?」
「いや、ありがとうございます。マーガレット様。おかげで一つ、新商品の途が開けました」
「それって……」
なんと言えばいいのだろうか?
肌を改善する薬……これを作ることが出来れば、大きな利益になるはずだ。世の女性は、良い肌というものに巨額の投資を厭わない。
「とにかく、ありがとうございます‼ この礼は必ず‼」
「あっ‼ 商人さぁぁぁぁん!」
アイディアが浮かべば、即実行だ。
やる気が出てきたぞ‼
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